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「古書 井上有一」
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古書 井上有一

井上有一

 圧倒的な一文字を書いた書家、骨董買取・井上有一。
 小、中学校の教師を務めていた井上有一は書家になると決めたその時から、いつも書に向かっていた人物です。彼の書家としての始まりは、34歳の頃に父を亡くした時に書いた自我偈を、書道家であった上田桑鳩に絶賛されたことからです。そして彼を師とし、書家への道を歩んでいくことになります。井上有一は、10代の頃に画家を目指し絵を学んでいたため、その絵画独特の表現が書家としての作品の中にも活かされており、書いた文字が意味するものを、まるで「描いた」かのように、独特の雰囲気を持ったものになっています。
 井上有一は、一字書という作品を次々と発表していきました。文字を記号ではなく一つの芸術として表現するために実験的な作品を多く書き上げていきました。井上有一の作品に、「貧」という一字書があります。「貧」という文字も、井上有一が「描く」ことによって、まるで彫刻絵画のような質感を持ち、視覚に強く訴えかけてくる重さをも感じさせるような一文字になります。「貧しい」という意味を文字としての意味ではなく、形で表現しようとしたのか、彼が描いた「貧」は、まるで一人の人間が必死に立ち上がろうとしているようで、貧しくても必死に生きる人間の姿、心情を見た人に訴えかけてくる、圧倒的な力強さを感じさせる作品となっています。
 井上有一は「日展」や「前衛書道」などを嫌い、一匹狼として独自の作品を築き上げていきました。書というものは、なにものにも囚われることなく、ただひたすらに自由な表現、芸術であることを周囲に示したのです。彼の書家としての力強い筆遣いは、見た人に「自分は本当に文字を見ているのか?」と疑問を抱かせるほど芸術作品として完成された一字書を制作し発表していきました。己が決めた道を曲げることなく書家として活動し続けた井上有一の人生は、その作品の力強い一筆に確かに表れていると感じます。