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日本画 上村松園
上村 松園(うえむらしょうえん)は1875年(明治8年)に京都の下京で生まれた日本画家で、美人画を描き続けた孤高の女性である。同時代の樋口一葉と同様に男尊女卑の時代の中で、自立する女性として孤軍奮闘した気高い心根を持ち続けた女性である。生前に父をなくし茶葉を商う母の手一つで育てられたのだが、女だてらに絵を志した娘を母は生涯に渡って支え続けた。13歳の頃に鈴木松年に師事したのだが、たちまちのうちに才能を現し15歳の時に第3回内国勧業博覧会に出品した「四季美人図」が一等褒状を受け天才少女として世間の注目を浴びた。彼女の女としての最初の転機は27歳の時に妊娠したことであろう。相手の男性は既婚者で師の鈴木松年であるらしいと噂されたが、多くを語ることはなく未婚の母として世間の誹謗中傷に耐えながら長男松篁(しょうこう)を出産した。彼女は母同様に女手一つで息子を一流画家となるまで育て上げた。そんな息子が12歳になった頃に描いた画に「花がたみ」がある。舞い落ちる楓の紅葉色の中に微笑みながら立っている美人画なのだが、自らの女としての悦びを現しているように見える。そんな彼女の第二の転機は40歳を越えてからの年下男性との悲恋であり、その時の心情のままに描かれたのが「焔(ほのお)」である。立ち去りながら振り返る女の口元は黒髪を噛み締めていて、恨めしげな女の情念を激しく描ききっている。のちに「なぜこのような凄絶な作品を描いたのか自分でも分からない」とその頃の心情を打ち明けているが、その後3年間は絶筆していることからみて悲恋が彼女を打ちのめしていたのだとしか言いようがないであろう。この画に込められたすさまじいまでの女の情念を見て、かえって世間の見る目は一転してその才を高く評価することとなったのは皮肉な結果である。そんな彼女が61歳で発表した「序の舞」は朱の着物に白扇を差し出す凛とした女性を描いている。この画に込めた心情を彼女自身が語っているので紹介しておこう。「何ものにも犯されない女性の内に潜む強い意志をこの絵に表現したかった。一点の卑俗なところもなく、清澄な感じのする香り高い珠玉のような絵こそ、私の念願するものなのです」
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