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「瑛九」
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瑛九

瑛九

 瑛九は宮崎県に生まれた、洋画家です。その独特な作品は抽象的なものが多く、強烈なキャラクターも相まって現代でも熱狂的なファンを多く擁します。また、瑛九はそのネーミングから自らをEi-Qとも自署しています。瑛九を語る上で重要なのが、フォトグラムの作品集である「眠りの理由」です。クオリティの高い出来映えに賛美を浴びていましたが、このフォトグラムは「フォトデッサン」とも呼ばれており、一説によれば約3,000点以上のフォトデッサンが制作されていたのではないか、とも言われています。この作品群はどれも、抽象的に描かれていますが、どこか優しげで、スッと絵画の中に吸い込まれてしまうような、不思議な感覚を覚えます。
 特に1953年に制作された「母」ですが、悲しげなのか、ただ考えにふけっているのか。母を見つめる人物の廻りには様々な思いが交差しているようなモンタージュと、左上から覗く母と思われる人物の慈愛に満ちた眼差しが、なんとも優しくそして独創的な空気感を演出しています。当然、このフォトグラムだけではなく油彩画にも後世に残すべき作品が多数あります。油彩画は多くの画家が悪戦苦闘したジャンルだっただけに、瑛九の描くクオリティの高さがより一層引き立つことも特徴でしょう。一部では、最も優秀なカラーリストではないか、とも言われ賞賛を集めています。まさに美しく華麗であり、彼の心に眠る美を表現した作品が「海辺の孤独」ではないでしょうか。ブルーとレッドの絶妙な色彩使いに淡い白色が何とも切なくも、まるで孤独を楽しみ、そこにしか無い美しさを保ち続ける強さを感じることができます。
 また、その独特でありながら幻想世界に引きずり込まれる絵画の多くは「エロス」を感じとることもでき、どことなく官能的な雰囲気を醸し出していることも忘れてはなりません。「果物」「音楽」など、甘美でありながらも力強さと繊細さを感じ取れます。1960年48歳でこの世を去っている瑛九ですが、生涯描き続けた作品には今、そこに在る最も美しい光が常に表現されていました。天才と謳われたこの画家は今もなお高い評価を得ており、日本の美術を語る上では無くてはならない存在になっているのです。