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「児玉希望」
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児玉希望
児玉希望(こだま きぼう)は明治から近代にかけて活躍した日本画の大家です。児玉と聞いて真っ先に思い出されるのはやはり写実性の高い水墨画でしょう。晩年の児玉自身が「水墨画は素人が描けるようなものではない」と語っているように、水墨画は児玉にとって特別に思い入れがあり、実際数多くの秀作を残しています。『枯野』、『浮御堂』、『雨後』などの繊細かつ写実性の高い水墨画は児玉の集大成と言われており、後世の日本画家に多大な影響を与えました。しかし、児玉は画家人生の最初から水墨画を志していたわけではありません。児玉は並々ならぬバイタリティであらゆる画題に挑戦し、試行錯誤の末、水墨画にたどり着いたのです。児玉希望は1898年、広島県に生まれます。幼少から絵画の手ほどきを受け、13歳の頃には緻密な筆致による院体画(伝統を重視した写実的な画風)を完成させ、周囲を驚かせます。早熟な児玉はその後も絵の練達を重ね、20歳のときに上京し、日本画家の川合玉堂の弟子となりました。そしてそのわずか3年後、帝展で初入選となります。 児玉自身が初めて出品する展覧会、しかも名誉ある帝展で入選を果たしたことで話題になり、有望な新人として注目を集めました。その後も帝展、日展、文展などの展覧会に出品、徐々に日本画家としての地位を確立させた児玉は30歳のときに『盛秋』で特選の受賞を果たします。当代切っての日本画家のエリートとして、順風満帆な道を進む児玉でしたが、一人の芸術家として絵の可能性に頭を悩ませてもいました。初期の児玉の作品の多くは明媚な色彩のコントラストや色彩と主題の調和など、鋭い色彩感覚に基づいています。しかし、そうした作品を制作し続けるうち、色彩の効能だけに依存した作風で本当に良いのか、絵というものは絵の具や墨を見せるものではないはずだ、という思いが日増しに強くなります。そうした疑問に自らが答えるために、南画、歴史画、人物画など新しい領域の絵画技術を独学し、さらに59歳のときにはヨーロッパに1年間渡り、西洋古今の芸術を学びました。そうした試行錯誤の果てにたどり着いたのが児玉の水墨画です。鋭い観察眼を失うこと無く完成度を追求した晩年の水墨画は国内外で高評価を受け、さらに写実性のみならず「抽象水墨画」とでも言うべき新しい水墨画の可能性を追求しました。