機械仕掛けの美しいさえずり ―シンギングバード―
機械仕掛けの美しいさえずり ―シンギングバード―
美しい小鳥のさえずりを間近で聞きながら、部屋でくつろぐ―。小鳥の声の心地良さ、可愛さは昔から人々にとって魅力的なものです。
そんな癒しのさえずりを飼うよりお手軽に好きな時に聞きたいと思った時、今の時代ならネットやCD等で簡単に聞く事ができますが、昔の人もやはり同じ思いはあり、デジタル以前の時代「シンギングバード」という小鳥のカラクリが発明されました。これはなんと本物そっくりの小鳥が動き鳴くという、今見ても驚く仕掛けの面白いカラクリです。今回はそのシンギングバードについてのお話になります。
オートマタの誕生
シンギングバードが発明されたのは17世紀後半、まだオルゴールが発明されるよりも10年程前、スイスの天才的な時計職人ジャケ・ドローによって生み出されました。
農場に生まれながら時計技術に興味を持ち、たちまち時計職人として才能を開花させた彼は、更に仕掛け(ムーブメント)を時計以外の動きとしても発展させ、シンギングバードを生み出しました。
オルゴールなどのカラクリは、歯車やぜんまいなど時計技術の応用で出来ており、シンギングバードはその中でも”オートマタ(自動人形)”と呼ばれるジャンルのものになります。すべてアナログの機械仕掛けで動き、複雑な動作の仕組みはパッと外見では分からない位緻密に出来ていて、嘴を動かしながらリアルにさえずり羽ばたいたり、あちこち向いたりするという細かな動作はまるで本物の小鳥のようで、デジタルが無かった当時の人々はもちろん、デジタル中心の今も尚魅力的なものとして世界中にファンがいます。
人気の広がり
ジャケ・ドローのシンギングバード初作品は金の嗅ぎ煙草入れで、それらを見た王侯貴族など富裕層の間で人気が高まり、高価な装飾はもちろん時計に組み込むなど、凝った仕掛けを施したりと豪華な宝飾品として次々製作されました。この需要によって技術も継承され、様々なところで製品が作られるようになり、人気はヨーロッパだけに留まらずアジアにも進出していきます。
18世紀には清朝末期の中国で人気になり、皇帝”溥儀(ふぎ)”も魅了された一人で、彼はシンギングバードを使って本物の鳥に鳴き方を教えたと言われています。
更に19世紀初頭には、まだ開国以前だった日本にも進出していたそうで、それだけ世界に人気が広がりました。
ケージとボックス
そんなシンギングバードには主に2つの種類があり、それぞれ違った特徴を持っています。一つは鳥かごに入った形状の「ケージ」、もう一つは箱に入った「ボックス」です。
ケージの特徴は、まさに鳥かごに入った本物の鳥のような感覚を楽しむタイプで、通常の鳥パーツは本物の鳥羽を使用して制作しますが、中には鳥の剥製を使用したものや10羽程の鳥がケージに入った豪華なものまであったそうです。
一方ボックスは、オルゴールやジュエリーボックスなど高価な箱の中に組み込まれ、開くと中から出てくるような小さな鳥で、その巧妙なからくりを楽しむタイプのものです。箱を開くとパッと出て動き出し、鳴き終わるとパッと箱の中に自ら入ってしまうようなあっと驚く高度な仕掛けなどを楽しめます。
さいごに
スイスのリュージュ社、ドイツのシンフォニオン社の2社では、今も尚当時の伝統的な工法で脈々と現行品のシンギングバードを作り続けられています。その他最盛期の有名ブランドやメーカー品、カジュアルなおもちゃまで様々なタイプのシンギングバードが現在世界中にあります。もしご売却検討の際は、ぜひお気軽に八光堂へお尋ねください。