龍笛についてのいろいろ
龍笛(りゅうてき)について
人類の有史以来、我々の生活には衣食住に加え、娯楽が必須になってきました。
かのキリストも「人はパンのみに生きるに非ず」とのたまっています。
恐らくこちらは慈愛や仁徳の面から発せられた言葉だとは思いますが、ここでは文言通りに受け取って、娯楽も含まれるとしておきましょう。
さて、人類の最も身近な娯楽とは何だったのか。
個人的には、音楽を推したいところです。
人類は猿人の頃に棒を持って相手と戦うことを覚えました。
この時に、棒と何かの動物の骨や石を叩くと音楽が発生することに気付いたのが音楽の起源かもしれません。(アーサー=C=クラークが書いた名作『2001年宇宙の旅』では、モノリスが我々の祖先に知能を与え、人類への進化を導きましたね。)
当初は意味不明な音の羅列が次第に整えられていき、その結果一つの音の流れが生み出され、それはいつしか「リズム」と呼ばれるようになったと考えられます。
ここに、世界最古のドラムが誕生したのでしょう。
ドラムが生まれると、次に我々の祖先はメロディーを発明しました。
自然には様々な音(雨、川の流れ、雷など)があふれていますが、メロディーとして認識したものは、個人的には恐らく洞窟と風だったのではないかと思います。
風の流れから空気が洞窟に吸い込まれ、そこで発生する音がメロディーに繋がったのではないでしょうか。
そしていつしか祖先たちはマンモスの牙や動物の骨に穴をあけ、自らの息吹で音を出すことを発見したのかもしれません。
事実、ネアンデルタール人が作った骨の笛がドイツで発見されています。
このように、我々の歴史に、衣食住と同じくらい音楽は重要な位置を占めているんですね。
それは日本でも同様です。
龍笛といえば・・・
今回、紹介する品物の龍笛は、まさに人と共にある古美術品と言えるでしょう。
龍笛は雅楽で使用される笛で、古くは平安時代の貴族や武士に好まれた楽器です。
その音色は透き通って高く、まるで龍が哭いているかのようであるため龍笛と呼ばれたそうです。
この龍笛ですが、有名どころでは清少納言や源義経、源博雅等が良く嗜まれており、特に源博雅は笛の名手で、朱雀門の鬼より「葉二つ」という笛を授かったという逸話もあります。
それほど高貴な面々に愛された龍笛ですが、頭一つ抜けて有名な人物はやはり平敦盛公でしょう。
平家物語でも吟じられている有名な敦盛と熊谷直実のシーンで、敦盛を討った熊谷は携帯していた龍笛が手掛かりとなり、討ったその人が敦盛だと分かります。
そこで、平家は例え戦場にいたとしても風雅を感じる余裕のある人々だったと感じ入ります。
対して源氏は風流を楽しむ余裕もなく、ただひたすらに戦ってきました。
無論、当時としても戦場は死線ですので、先頭のプロたる武士としては源氏の方が正しいのかもしれません。
しかし、“人はパンのみに生きるに非ず”。
我々の生活に欠かせなくなった音楽、娯楽を省きただひたすらにパンを追い求めても良いのでしょうか。
熊谷と、敦盛と笛。
これらは日々忙しさにかまけている我々にも通じるところがあるかも知れません。
さいごに