【銀座本店:絵画買取】奥龍之介 油彩
奥龍之介は、非常に写実的かつ緻密に対象を描写した人物で、描いた対象として最も有名なものは「少女と楽器」というモチーフかもしれませんね。
では、なぜこのモチーフが多く制作されたのでしょうか。
「少女と楽器」という光
奥は東京美術学校(今の東京芸術大学)油絵科で油彩画を学びました。学生時代は、当時の多くの他学生たちと同じように、レンブラントなどの複製画を描いたといいます。
非常に多才な人物で、絵の他にクラシック音楽も嗜んでいました。特にバイオリンの腕がよく、一時期は東京都民交響楽団に在籍していた程です。彼の作品で特に有名な「楽器」のモチーフがなぜ選ばれたのか、ここから想像がつきますね。
では、「少女」というのは一体誰でしょうか。
答えは簡単、彼の二人の娘たちです。
奥龍之介の作品を一度でも目にしたことがある人ならば分かると思いますが、彼の描く少女たちは、非常にクラシカルな空気感の中、みずみずしく生き生きと、そして美しく、可愛らしく描かれています。
画家自身が愛情を持って描いていたことがよく分かる作品ばかりで、その絵の表情から奥は娘をとても愛していたことが伝わってきます。
「荒廃した世界」という影
奥龍之介という画家が少女画しか描かなかったかといえば、そうではありません。あまり知られていないかもしれませんが、風景画なども多く制作しています。
さて、ここに面白い事実がございます。奥の描く風景画は、よく知られている少女画とは全く趣が違っている、ということです。
彼の風景画には、枯れた植物や倒れた木、荒れた海、難破した船――など、およそ「みずみずしさ」「可愛らしさ」などとは縁遠いモチーフが描かれているのです。むしろ寂寞とした、荒廃した世界がそこにはあります。荒廃した世界が持つ美しさはもちろんありますが、少女画とは対照的なものです。
奥は東京美術学校在学時代、学徒出陣で戦地に赴きました。また、軍人だった父親を戦争で亡くしてもいます。
戦争について奥は特に語ってはいませんが、こういった風景画を見ていると、彼がその頃の重苦しい時期の事を詳細に語っているようにも私には思えてくるのです。
奥龍之介の魅力
芸術家が表現するものは、光もあれば影もあります。
奥の場合は、光を描写する時に愛する娘や楽器を選び、影を表現する時に枯木や荒れた大地などを敢えて選んでいるような気がします。そして、そのハッキリと分かりすぎるくらいのコントラストこそが、奥龍之介という作家の魅力なのかもしれません。
さいごに