【銀座本店:西洋美術買取】ミューラー 吊りランプ
ナンシー派の作家として
ミューラーとは、フランスのナンシーにて兄弟で作品を制作したガラス工芸作家です。
ナンシーといえば「ナンシー派」という近代工芸の運動を表す言葉があることからも分かるように、フランスでのアール・ヌーヴォーの拠点の一つとなった街ですね。もともとガラス工芸などが盛んな街でしたが、かの有名なエミール・ガレがここに拠点を置いたこともあり、ナンシーではガラス・金属工芸が目覚ましく発展しました。
ミューラー兄弟は、フランスのモーゼル、カルハウゼンという町で生を受けた10人兄弟です。
兄弟の名はエミール、アンリ、ニコラ、ジャン、オーギュスト、ピエール、デジレ、ヴィクトール、カトリーヌ、ウージェーヌ。やがてドイツ占領下となったカルハウゼンからナンシーへと移住してからも、彼らはそれぞれガラス工芸を学びました。
10人中5人はガレの工房で学んだということですから、彼らの作品にガレの影響が色濃く出ているのも頷けますね。
ミューラー作品の魅力
さて、そんなミューラー兄弟ですが、ほぼ同時期に活動していたガレやドーム兄弟などと比べて、あまり取り沙汰されることが少ないように感じられます。
アール・ヌーヴォーやアール・デコ芸術で語られることが多いのは、やはり圧倒的にガレが多く、次いでドーム兄弟、ルネ・ラリック、デザインの分野ならアルフォンス・ミュシャやウィリアム・モリスなどが挙げられることが多いです(その他、建築分野なども含めるともっとたくさんありますが…)。
ミューラーの作品を見てみると、ランプやシャンデリアなどが非常に多く、そのほとんどがどちらかというと控えめなデザインにされていることが分かります。ガレ、ドームなどの作品と見比べてみても、装飾をそこまで多くは用いていません。
アール・ヌーヴォーは装飾の芸術です。虫や草花などの自然界にあるモチーフを元に、それらを洗練されたデザインへと昇華させ、美しい装飾美を実現させました。なので、使いやすさ・飾りやすさなどの機能性はもちろんの事、そこに付随する「装飾の美」こそが最も重要でした。
ミューラーの作品からも、装飾の美を鑑賞することができます。ですが、それよりもまず先に感じられるのは「これを部屋のどこに飾ろうか」などというインスピレーションの方なのです。自分の生活のどこに取り入れようか、という気持ちになるわけです。
デザインが少し控えめなので、部屋のどこに置いても調和が保てて雰囲気が良さそうですしね…。個人の感想ですが、少なくとも私にはそう感じられます。
ガレなどの創った「装飾の美」ももちろん大変美しく、素晴らしいものです。
ですが、生活の中に取り入れやすいという意味での、「機能性の美」とでも言いましょうか。そういったものも同時に私たちにとってはとても大事なのです。
今こそミューラー作品を
ミューラー兄弟の作品には、他の作家と比べると華美な装飾、華やかさなどはあまりないかもしれません(これまであまり単独で話題にされることが少なかったのは、もしかしたらそういった要因もあるのかもしれないですね)。
ですが、アール・ヌーヴォー、アール・デコ期を駆け抜けていった他のナンシー派の作家たちと同じように、彼らもまた、この時期を生き抜いた作家です。その技術力・表現力は非常に高く、他作家にも全く引けを取りません。
今一度、ミューラー兄弟の作品を手に取って、彼らのガラス工芸にかけた情熱を感じ取ってみたいものですね。