伝統的な日本画の世界に革新的な技法で挑んだ天才画家・菱田春草
明治時代に活躍した日本画家・菱田春草(ひしだしゅんそう)。若い頃からその才覚は目覚しく、横山大観とともに「朦朧体(もうろうたい)」という革新的な技法を編み出し、以降の日本画壇に多大な影響を与えました。
代表作である「落葉」や「黒き猫」は、重要文化財にも指定されています。この記事では、そんな菱田春草の生い立ちをはじめ、作品の特徴や魅力についてご紹介します。
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明治時代に活躍した天才絵師・菱田春草の生い立ち
▲菱田春草が生まれた長野県飯田市の風景
東京美術学校にて岡倉天心らに学び、早くから才覚を表す
菱田春草は、1874年に筑摩県飯田町(現在の長野県飯田市)にて生まれました。16歳にして東京美術学校(現在の東京藝術大学)に第二期生として入学。ひとつ上の学年には、横山大観(※)や下村観山(※)がいました。彼らとは卒業後にも長期にわたって共に活動することとなります。菱田春草は、在学中から才覚を現し、その名声と期待は非常に大きなものでした。卒業制作の「寡婦と孤児」は批判的な意見が多い中、当時の校長であった岡倉天心の裁定によって最優等に選ばれました。
明治から昭和の画壇を牽引した日本画家。常に画壇の第一線で活躍し、近代美術史に数多くの名作を残す。
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(※)下村観山
明治から昭和初期の日本画家。横山大観・菱田春草らとともに活躍し、日本画の再興にも尽力した。
横山大観らとともに新たな絵画技法「朦朧体」を確立
卒業後、同校の教員となるも、岡倉天心の辞職にともなって辞職。岡倉天心が新たに発足させた美術団体・日本美術院の正員となります。ここで菱田春草は横山大観らとともに、日本の伝統絵画に西洋絵画の技法を取り入れた新たな日本画の創造に尽力しました。線の描画に頼らず、色彩の濃淡によって対象を表現した技法は、「朦朧体」と呼ばれています。
海外で個展を開き、大きな評価を得る
菱田春草は、31歳のときに横山大観らとともに海外の技術を学ぶためにインドやアメリカを訪問。各地で個展を開催しました。当時、日本では彼らの朦朧体という画風はあまり評価を受けていませんでしたが、海外ではその画風が「神秘的」と高い評価を受けました。そして、海外での評価とともに日本での画家としての地位も上昇していきます。
網膜炎で失明の危機に瀕するも、多数の名作を生む
しかし、評価を受けていく最中、34歳のときに網膜炎を患い、失明の危機にさらされます。医者からは創作活動を禁じられ、目が見えにくくなりつつも創作活動を続けました。そんな中で描かれた「落葉」や「黒き猫」はのちに重要文化財に指定され、彼の代表作となりました。しかし、ついには36歳で失明。その1か月後に腎臓病でこの世を去りました。芸術家としての絶頂を極めんとする直前の死に、多くの関係者が悲嘆に暮れたと言われています。
「朦朧体」で日本画壇に新たな風を吹き込んだ菱田春草。その作品の特徴
▲菱田春草が「落葉」のモチーフとして落ち葉のイメージ
菱田春草の作風の特徴は、輪郭を用いずにモチーフを彩色または水墨で描くこと。この技法は「朦朧体」と呼ばれています。この技法は、恩師であった岡倉天心が「なんとか空気を絵で表現する方法はないか」と問いかけたことがきっかけに、盟友である横山大観と共に試行錯誤を重ね、生まれたと言われています。
それまでの日本画の伝統を打ち破るこの技法は、当時の画壇から猛烈な批判にさらされました。しかし、海外での評価を機に、国内での評価も上がっていき、以降の日本画の革新に大きく貢献することとなりました。
なかでも、晩年に描かれた代表作のひとつ「落葉」は、伝統的な屏風形式をベースとしながらも、空気遠近法を用いて合理的な空間表現を実現した名作と評価されています。
重要文化財に指定されている作品も。菱田春草、作品の評価とは
▲黒猫は菱田春草の代表作のモチーフとして知られる
菱田春草は、横山大観とともに、近代日本画の発展に大きな貢献を残しました。美術学校の卒業作品として制作された「寡婦と孤児」や、朦朧体の技法を取り入れた「武蔵野」、重要文化財に指定されている「落葉」や「黒き猫」などをはじめ、その作品群は現在でも高い評価を受けています。
現在市場に出回っているものは、そのほとんどが版画などの複製品ですが、原画から複製された絵にはシリアルナンバーが入っており、原画からの複製品であれば数百万~数千万と高値での買取が期待できます。
ただ、複製品にも複数の種類があり、その種類を識別するのは専門家でないと難しいのが現状です。
菱田春草作品の買取を検討している方は、一度専門店への査定を検討してみてください。
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菱田春草の作品紹介
「黒き猫」
重要文化財に指定されている有名な黒猫の作品です。作家名は知らずとも一度は見たことがある方も少なくないのではないでしょうか。木にじっと座り込みこちらを見つめる黒猫の野性味、金泥で描かれた柏の葉とのコントラストが引き立てあう見事な作品。
「柳汀白鷺」
河辺に覆い被さるように枝垂れる柳の奥行までもが表現されている一作。朦朧体の技法を生かしながら柳の立体感をも表現されています。波打ち際に留まる舟の先端にひっそりと佇む白鷺もかわいらしいアクセントになっています(わかりづらいかもしれませんが…)。
「鳥之図」
木の上で休む三羽の鳥を墨の濃淡で効果的に表現している作品。木は薄墨で表現することにより、自然と鳥にフォーカスされるよう計算されていたり、余白を作ることにより、より高い木々に留まっている場面を想像させるような感性をくすぐられる一作です。
菱田春草の作品としては、この他「落葉」などが有名です。短い人生の中で、絵画だけでなく掛軸としても多くの作品を残しており、現代でも多くのファンを獲得しています。
まとめ
横山大観らと共に日本美術院を創設し、近代日本絵画の発展に大きな功績を残した天才画家、菱田春草。その朦朧体画風の作品は、現在でも高い評価を受けています。
菱田春草の作品は買取市場でも人気が高く、作品によっては高額で取引されることも多々あります。キズや汚れがあっても、査定額が高くなる作品も数多くあるため、買取を検討されている方は、ぜひ一度ご相談ください。
古美術 八光堂