陶磁器ブランド・ミントン。世界で最も美しいと称された「ハドンホール」を制作
ミントンは、イギリス中南部の窯業地ストーク・オン・トレントに18世紀末から操業をはじめた陶磁器メーカーです。花柄の「ハドンホール」シリーズがとても有名で、食器だけではなくタオルやエプロンなどのファブリック製品も多く、食器好きでなくとも知名度が高い人気のブランドです。
ミントンが制作する美しい白磁は、イギリスのヴィクトリア女王から「世界で最も美しいボーンチャイナ」と称賛され、のちに英国王室御用達となるなど高く評価され、多くの人々に愛されています。
この記事では、そんな陶磁器ブランド・ミントンの歴史と魅力を、創業者のトーマス・ミントン、二代目のハーバード・ミントン、三代目のコリン・ミントン・キャンベルと、三世代に渡りご紹介していきます。
イギリスを代表する陶磁器ブランド・ミントンの歴史
▲ミントンタイル
創業者トーマス・ミントン。ボーンチャイナの制作を始める
ミントンの創業者であるトーマス・ミントンは、1765年、イギリスのストーク・オン・トレントの南西にあるシュロッブシャーのシュルーズベリーで生まれました。
トーマスは1780年頃から、銅板転写(※)の修業を開始します。1789年には、イギリスの陶磁器で有名な街ストーク・オン・トレントへ移り住み、様々な窯の銅板彫刻の下請けする仕事をスタートしました。トーマス・ミントンは銅板を利用した転写技術を広めるため、染付風の模様を転写した食器の制作を始めたことからミントン窯のはじまりとなります。1793年、トーマス・ミントン27歳のことでした。その食器は青い染付で描かれた中国式の絵柄から「ウィローパターン(柳文様)」と呼ばれ、人々の耳目を集めました。当時のヨーロッパでは中国式の美術様式「シノワズリ」が流行していたため、ミントンのウィローパターン作品も大評判となり、たちまちイギリス全土に普及していくこととなります。
1796年にミントンはジョセフ・ポールソンとの共同経営でボーンチャイナの陶磁器の製造を始めます。ボーンチャイナとは、中国の白磁のように真っ白な陶磁器のことを指します。1816年のジョセフの死をきっかけに製造を中断しますが、1820年頃、美しい装飾を施した作品を発表し、制作を再開することになりました。
銅板に彫った図案を転写紙に印刷し、陶磁器などの表面に貼りつけて転写する技法。「プリントウェア」とも呼ばれる。
二代目ハーバード・ミントン。ビジネスを広げ、王室御用達に
ハーバード・ミントンは、トーマス・ミントンの次男であり、ミントンの二代目の経営者です。
1820年頃に入社し、当初は営業の仕事をしていましたが、やがて経営を主導していきます。
ハーバードはブランドの芸術性と生産性の両方を大事にし、ビジネスをさらに飛躍させます。建築家やデザイナーとの提携や新しい技術を導入するなど、多くのアイデアを柔軟に取り入れていきました。また食器だけではなく、新たにオーナメントやタイル等の製品内容の拡大も行います。
ウェストミンスター宮殿(※)に使用された「ミントンタイル」は大ヒットし、以降数々の建築物に採用されていきました。
こうしてミントンの評判は広がっていき、1840年にはヴィクトリア女王から初めてティーセット等の注文を受けます。これ以来貴族からも多くの注文が入り始めます。
1846年には一般市民向けに手頃な価格の「ティー・サービス・セット」を発売しベストセラーに。1851年には大英博覧会にロココ式の傑作「デザート・サービス・セット」を出展し、高評価を得ます。
イギリス中から愛されたミントンのテーブルウェアは、1856年に英国王室御用達となりました。
イギリスのロンドン中心部のテムズ川沿いにある宮殿。現在は議事堂として使用されている。併設されている時計塔(ビッグ・ベン)とともに、ロンドンを代表する建造物として挙げられる。
三代目コリン・ミントン・キャンベル。「ハドンホール」は世界中で大ベストセラー
1858年、ハーバート・ミントンの死後、甥のコリン・ミントン・キャンベルが会社の経営を引き継ぎました。ジャポニズムやアール・ヌーヴォーの時代に、ミントンでも様々な技術を取り入れた素晴らしい作品が多数作られていきます。
1863年にミントンは新しい金彩技術である「アシッドゴールド(金彩エッジング)」を開発、特許を取得します。1871年には「パテ・シュール・パテ」の技法を持ったルイ・ソロンをフランスのセーブル窯から引き抜き、ミントンでもこの技法を使った作品の制作を開始します。非常に手間がかかるため採算はとれませんでしたが、浮彫模様のある陶器の分野において名実ともに世界一の会社へと昇りつめていきました。
1885年にコリン・ミントン・キャンベルが亡くなったあとも、スリップ(※)を素焼きに模様づけする「マジョリカ焼き」の手法を取り入れるなど、勢いは止まりません。この19世紀末がミントンの黄金期であり、世界中の貴族から豪華な作品が求められることとなりました。
クリーム状となった化粧土(スリップ)を、筆などを用いて装飾する技法
20世紀に入ってからは、1948年に「ハドンホール」を発表し、世界的なベストセラーとなります。
しかし、1968年にミントンはロイヤルドルトン社へ吸収合併され、その後の2005年にはロイヤルドルトン社がウォーターフォード・ウェッジウッド社と合併されることになります。合併後もミントンはそれまでに作り上げてきた定番作品と新作を作り続けていましたが、2015年には完全廃業となりました。
ミントンの作品の特長。美しい白磁が魅力
▲ミントンの作品
時代の流行を取り入れ、かつ芸術も損なわない意匠が人気
ミントンの作品は茶器・酒器・テーブルウェア・壺・花瓶・タイル・プレート・時計など、多岐にわたります。
さらに流行を取り入れながら芸術性も失わなかったため、各時代で多くの人々に愛されています。初期の代表的な中国式模様、風景を青一色で表現した青花風食器「ウィロー・パターン」。「茶器は花柄模様」という概念を英国に広めたとされる花柄の実用茶器「ティー・サービス・セット」。
ヴィクトリア女王考案の意匠とされる野イチゴの花や実が浮彫りにされた食器「ストロベリー・エンボス」やその彩色版の「ヴィクトリアストロベリー」。ハドンホール古城から着想を得た、草花が散りばめられた不朽の定番「ハドンホール」。「フォーシーズンコレクション」や「スプリングブロッサム」等、日本市場限定の食器も制作されました。
独自の技術を模索し続けた気品ある白磁や繊細な金彩が特長
ミントンの作品は、大理石のような美しさを持つ気品ある「パリアン磁器」で制作されています。長石(ちょうせき)を主成分とし、独自で新しい素材が用いられました。他の窯の作品と違い、軟質のミントン磁器は本焼きの温度が低く、濃い色味の素地の製造も可能でした。濃い色に淡い色味の装飾を半透明にあしらう技術は、「食器装飾の最高の発明」と呼ばれました。
美しい金彩もミントンの特長です。素地の上に直接絵柄を描き込んでいき、液を塗り重ねた厚みで立体感と透明感を表現するという「パテ・シュール・パテ」という特殊で高度な技法を使用しています。
1865年にミントンは「アシッドゴールド」という、酸の腐食により金に浮彫効果を与える手法を開発。その後も金を盛りつける「レイズド・ぺイスト・ゴールド(盛金装飾)」を開発するなど、繊細で美しい金彩に力を入れていました。
ミントンの作品は製造された年代によりバックスタンプが異なるので、いつ頃の作品かを判断する目安になります。
ミントン作品の評価とは?ブランド廃止に伴い今後も価値があがる
「ハドンホール」は高額商品が少なく使いやすいデザインのため、家庭でも使用しやすい商品です。ミントンの食器はどれも品質が高く、買取では「ハドンホール」以外でも高く評価されています。薔薇をモチーフとした「ヴィクトリアストロベリー」、英国庭園に咲く花を描いた「シークレットガーデン」、東洋の染付を思わせる「ハードウィック」などが人気のシリーズです。
ふんだんに金彩を施した「ダイナスティ」シリーズは、ミントン最高峰商品と言われ、市場にも少ないため一番の高価買取商品になります。世界中で人気となったミントン製品はテーブルウェアだけではなく、多岐に渡ります。中でもタイルは品質の良さやデザインの豊富さから建築用の素材として大人気となりました。ロンドンのウェストミンスター寺院や国会議事堂、さらにアメリカの国会議事堂でもミントンタイルが使われています。
日本では三菱グループの生みの親である岩崎邸に使用されており、東京・上野に旧岩崎邸庭園として一般公開されています。都内に立ち寄られた際は見学してみてはいかがでしょうか。残念ながら2015年にブランドが廃止となったため、日本での流通は希少です。今後、更に価値が上がる美術的製品と言われています。
美術品高額買取
ミントンの作品・代表作の紹介
ミントン ハドンホール
「ハドンホール」は華やかさと可憐さを併せ持つ、ミントンの代表的なデザインです。イギリスの古城ハドンホール城にかけられていたタペストリーにインスパイアされて作られています。パッションフラワーやカーネーショ、パンジーなどの花々が描かれた総柄のデザインで、全部で12色もの絵の具を使っているという、贅沢なデザインでもあります。1948年に発表されて以来、世界中で広く愛され、ティーカップ以外にもテーブルウェアやエプロンなどの小物も充実しています。
ミントン パテ・シュール・パテ 女神と天使文壷 1対
ミントンのなかでも特に芸術性の高い「パテ・シュール・パテ」といった技法を使った飾り壷になります。こちらは液状にした粘土を筆で何層にもわたり描き、その装飾を施した上に釉薬をかけて焼成する技法です。あまりの繊細さとその立体感から「飾る陶磁器」とも呼ばれています。
ミントン クリスマスプレート
クリスマス飾りの大定番・セイヨウヒイラギをモチーフとした、まるでリースのような華やかなテーブルウェアです。色鮮やかな緑の葉と赤い実が、透かし彫り(表面をくり貫いて装飾する技法)で模様が施されることで、さらにリアリティを増しています。
「ハドンホールシリーズ」「ヴィクトリアストロベリーシリーズ」などの人気作品・代表作も
ヴィクトリア女王に「世界一美しい」と称賛され、英国王室御用達となったテーブルウェア「ミントン」。上品な白磁に繊細なデザインの作品は、今なお世界中で多くの人々に愛されています。今回ご紹介した作品の他、「ハドンホールシリーズ」の「セレブレーション」「マジェスティック」「ダイヤモンド」、「ヴィクトリア・ストロベリーシリーズ」の「ホワイト」「ブルー」「ハンドペイント」「クリスタル」などの作品も人気です。
そんなミントンの製品は買取市場でも人気が高く、シリーズによっては高額で取引されています。キズや汚れがあっても、査定額が高くなるものも数多くあります。ミントンの買取を検討されている方は、ぜひ一度ご相談ください。
古美術 八光堂