アール・ヌーヴォーの巨匠エミール・ガレ。その作品・代表作の特徴と評価
19世紀後半のアール・ヌーヴォーを代表するフランスの工芸家「エミール・ガレ」。フランス・ロレーヌ地方ナンシーを拠点に、ガラス工芸をはじめ、陶器や家具など幅広い分野の工芸作品を生み出し、今なお国際的な評価を得ています。
この記事では、そんなエミール・ガレの生い立ちや作品の特長・評価などについてご紹介します。
アールヌーヴォーの巨匠エミール・ガレの生い立ち
▲エミール・ガレが愛したフランス・ロレーヌ地方の風景
エミール・ガレがガラス工芸家になるまで
エミール・ガレは1846年フランスのロレーヌ地方ナンシーに生まれます。ガレの父親は家具や高級陶器を扱う仕事をしていたため、幼少期から工芸に親しんでいたといわれています。19歳のときにドイツのワイマールに留学してデザインを学び、20歳で帰国してからはロレーヌ地方のマイゼンタールにあるガラス工房ブルグン・シュヴェーラー社で本格的なガラス工芸の技法を習得しました。1877年、父親の工場の管理者となり、職人兼アートディレクターとしてガラス陶器の制作を開始します。
パリ万博での成功で国際的な評価を得る
ガレが注目を浴びるようになったのは、パリ万博への出品がきっかけでした。1878年には、ガラス部門で銀賞、陶器部門で銅賞を受賞。その翌年にも、ガラス部門と陶器部門でグランプリを同時受賞、家具部門でも銀賞を受賞しました。これを機に、ガレの作品は世界的に知られるようになり、国際的な名声を得ました。さらに1900年のパリ万博でもガラス部門と家具部門でグランプリを同時受賞。数々の受賞を経てガレの作品は、アール・ヌーヴォーの象徴と呼ばれるようになります。
ガレ本人の死去以降も、ガレ作品は生産され続けた
・第二工房期
ガレは、1904年に白血病で亡くなりましたが、以降もガレの妻であるアンリエット・ガレ・グリムらによってガレ工房は運営され、ガレの作品は生産され続けました。この時期の作品は、「第二工房期」と呼ばれており、ガレの存命中とは作風が変わり、カメオ彫り(※)が多く用いられるようになりました。しかし、1914年に始まった第一次世界大戦の影響で生産はストップ。ガレ工房は閉鎖されました。
大理石などの石や貝殻などの表面に浮き彫りを施したもの。沈み彫りされたものは「インタリオ」と呼ばれるが、それらを一括してカメオと総称することが多い。
・第三工房期
その後、1918年にガレの娘婿ポール・ペルドリーゼによってガレ工房は再開します。この時期は「第三工房期」と呼ばれ、ガラスを吹き付けるスフレ技法の作品が多く世に送りされました。しかし1931年、ガレ工房は完全に閉鎖。工房も敷地も売却され、エミール・ガレの作品は終焉を迎えることとなりました。
エミール・ガレの作品の特長とは?ジャポニスムとグラヴュール技法
▲19世紀にヨーロッパで流行したジャポニスム
エミール・ガレとジャポニスム
19世紀後半、日本が鎖国を終えると、それまで閉ざされていた日本の文化や芸術が一気に世界中に広まっていきました。その流れの中で巻き起こったのがジャポニスム(日本趣味)というブームでした。
ジャポニスムブームは、当時のヨーロッパに普及していたアール・ヌーヴォーにも大きな影響を与えました。ガレもまたジャポニスムの影響を受け、作品にその作風を取り入れた作家のひとりです。それまでのガレは、伝統的なロココ様式やゴシック様式・オリエント様式などが混交したデザインを制作していましたが、浮世絵などの日本美術との出会いをきっかけに、積極的にジャポニスムの意匠を取り入れて独自の表現を確立したのでした。
1878年のパリ万博に出品した「鯉魚文花瓶」は、北斎漫画の「魚濫観世音」の鯉の絵図を引用したとされ、梅や桜があしらわれています。
グラヴュール技法を確立
ガレのガラス作品は、グラヴュール技法という技法が用いられています。これは、ガラスの表面を研磨することで細かい文様や文字などの彫刻を施す技法です。当時のガラス工芸においてこの技法はあまり主流ではありませんでしたが、ガレはこの技法を積極的に用いて独自のスタイルを確立しました。
1889年のパリ万博でグランプリを獲得した作品「オルフェウスとエウリディケ」は、ギリシャ神話の一場面をグラヴュール技法によって表現した作品です。
エミール・ガレの評価とは?現代でも高い価値を持つ代表作の数々
▲ヨーロッパに残るアール・ヌーヴォー建築
アール・ヌーヴォーの巨匠と評されるエミール・ガレの作品は、現代でも高い評価を得ています。
ガレの作品は、ガレ本人が制作に関与していた第一工房期(1874~1904)、彼の死去後に妻らによって工房の運営制作が行われていた第二工房期(1904~1914)、戦後の工房再開から終焉を迎えるまでの第三工房期(1918~1931) の3つに分類されています。
制作された時期によって評価は変わりますが、いずれも高い評価額がついています。キズや汚れがあっても、査定額が高くなる作品も数多くあります。エミール・ガレの作品の買取を検討されている方は、ぜひ一度ご相談ください。
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エミール・ガレの作品・代表作の紹介
蘭ときのこ文花瓶
この作品は「酸化腐食彫り」「エナメル彩」「アプリカシオン」「エモー・ビジュー」の4つの技法から作られています。「アプリカシオン」とは、土台となるガラスの上に別のガラスを貼り付ける技法になります。「アップリケ」というと伝わりやすいかもしれません。「エモー・ビジュー」とは、下地に金属箔を敷き、その上からエナメルの釉薬をかけて焼き付ける技法になります。「エモー=七宝」、「ビジュー=宝石」の意味から伝わるように、キラキラと輝いて見える美しい技法です。
カモメと帆船文ランプ
ガレといえばランプというほど、ガレ作品の中でも人気の高いアイテムではないでしょうか。ガラスを多重に被せて重層的な構造を作り出す「被せガラス」の技法と、フッ化水素と硫酸の混合液を部分的に使い分け、酸で腐食させて文様を表現する「酸化腐食彫り(アシッド)」の技法で作られています。この2つの技法はガレ作品の中でもオーソドックスな技法になります。
ダリア文花瓶
ガレの作品でも特に好まれたモチーフが蜻蛉(とんぼ)です。日本では秋の季語でもあり親しみの深い蜻蛉ですが、ヨーロッパではあまり親しみがない蜻蛉をガレは好んで取り入れていたところはジャポニズムの影響が出ているのかもしれません。その蜻蛉をよく見てみると、目が「カボション」で表現されています。「カボション」とは、半球状のガラスの塊を下地となるガラス面へ貼り付ける技法で、デザインのアクセントとして使われています。他にも「ファイヤー・ポリッシュ」といったバーナーの熱でガラスの表面を溶かす技法が使われ、つるりとした表面に仕上がっています。
ランプ・花瓶で代表作多数。「ひとよ茸」も人気
フランス・ロレーヌ地方ナンシーを拠点にガラス工芸をはじめとする陶磁器や家具など、幅広い分野の工芸作品を生み出したエミール・ガレ。その美しい作品たちは、現在でも高い評価を受けています。ランプ・花瓶などで特に人気作が多く、きのこの形状をそのまま生かした幻想的なランプ「ひとよ茸」は知名度の高い作品です。
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