奥深い刀の世界。細分化された日本刀の部位の名称を解説
「武士の魂」とも言われる日本刀。かつては戦いにおける重要な武器として使用されていましたが、その美しく気高い佇まいから、現代では美術品として愛好する人が世界中にたくさんいます。今回はそんな日本刀の種類や各部位の名称や意味などについてご紹介します。
刀とは?日本刀の種類について
●刀とは
刀とは、剣類の中で片側にしか刃のついていないものを指します。刀は平仮名にすると「かた・な」と分けることができ、その名の通り片方の刃を表しているのです。刀の中でもよく知られているのが日本刀です。
●日本刀とは
一般的に、平安時代中期以降に日本固有の鍛冶製法によって作られた刀のことを日本刀と呼びます。日本刀の刃は良質な玉鋼(たまはがね)で、強い衝撃を受けても曲がったり折れたりしません。
●日本刀の種類
「日本刀」と聞くと、映画やアニメなどで武士が持っているあの長い刀をイメージする方が多いかと思います。ですが、実は日本刀と一口にいっても、以下のようにさまざまな種類があるのです。
・直刀(ちょくとう)
直刀は、反りのない真っ直ぐな刀剣のことを指します。その歴史は古く、平安時代中期以前から使用されていました。直刀の中にも種類があり、刃の長さが60cmを超えるものは「大刀(たち)」と呼ばれています。
・太刀(たち)
太刀とは、刃の長さが80cmを超える大型の刀剣のことを指します。太刀の原型は、平安時代以降に作られていた「湾刀(わんとう)」と呼ばれる弓形の反りがついた刀剣とされています。太刀は、直刀よりも戦いにおいて相手を斬るのに適していたため、南北朝時代までは多く使用されていました。しかし、やがて戦いの形式が騎馬戦から徒戦(馬に乗らず徒歩で戦うこと)に変化するとともに、刀もより軽量で抜刀しやすい形状のものへと進化していきました。そうして生まれたのが、次にご紹介する「打刀(うちがたな)」です。
・打刀(うちがたな)
打刀は、室町時代以降に武士の間で広く使用されていた刀剣のことを指します。「江戸時代や幕末をテーマにした映画やアニメで武士が手にしている刀」といえばわかりやすいでしょう。打刀の特徴は、刃の長さが60cm以上あり、刀身の反りが浅い点です。前述したように、徒戦での利便性を考慮して考案されています。
・脇差(わきざし)
江戸時代以降、武士は長さの異なる2本の刀を携えていました。そのうち、長い方が打刀、そして短い方が脇差です。脇差の役割は、打刀が使えなくなったときの予備用。また、脇差は武士階級ではない人々も携帯を許可されていました。
・短刀(たんとう)
短刀とは、刃長が30cm以下で反りのない刀剣のことを指します。短刀は太刀や打刀よりも軽く扱いやすいため、女性や子供が護身用として利用していました。
・薙刀(なぎなた)
薙刀とは、平安時代に広く使用されていた柄の長い刀剣のことを指します。刃の部分で斬りつけるだけでなく、打撃や指突にも使うことができます。
日本刀の構造を知ろう!
日本刀は、大きく分けると「刀身(とうしん)」と「拵(こしらえ)」で構成されています。
刀身とは日本刀の本体部分のことです。そして拵とは、刀身をおさめる鞘(さや)や柄(つか)などを含む外装部分のことを指します。
●刀身:刀の本体部分
刀身とは、日本刀の本体部分のこと。刀身は鞘(さや)に収まる部分と柄(つか)に収まる部分に大別でき、各部位にそれぞれ細かく名称がつけられています。
また、刀身は作られた年代や地域・刀工によって形状や模様に違いがあり、刀身を見ればその刀の歴史や出生を知ることができます。それでは、刀身の各パーツの名称とそれぞれの意味について詳しくみていきましょう。
▼全体像
▼図先端部
▼図中央部
▼図末端部
・刃(は)
刃は、刀身の「斬れる部分」を指します。日本刀にとって肝とも言える部位で、玉鋼(たまはがね)を活用し、繰り返しの鍛錬と入念な研ぎが施されています。
・刀文(はもん)
刃文(はもん)とは、刀身の刃に「焼き入れ」によって付いた模様・形状のこと。通常白い波のような模様をしており、日本刀を光にかざすことで鑑賞できます。刃文はその美しさゆえ装飾的な役割もありますが、刃の切れ味も左右します。「刃文を見れば刀工の腕前がわかる」と言われています。なお、「焼き入れ」は日本刀製作において非常に重要な工程で、刃文をつけるだけでなく刃を反らせるという目的もあります。また、焼き入れによって刃は強靭かつ鋭いものとなります。
・平地(ひらじ)
刃文(はもん)の下部分、刀身が平面になっている部分のことを平地(ひらじ)と呼びます。
・匂口(においくち)
刃文(はもん)と平地(ひらじ)の境界線のことを匂口(においくち)と呼びます。
・刃縁(はぶち)
匂口(においくち)が現れる部分のことを刃縁(はぶち)と呼びます。
・棟(むね)※「みね」とも呼びます
刀身の刃とは逆側の背にあたる部分です。「みね打ち」という言葉を聞いたことはないでしょうか?棟部分で攻撃を加えても刃のように斬ることはできません。
・鎬地(しのぎじ)
鎬地とは、刀と棟(むね)の間にある山高くなっている部分のことを指します。
・鋒(きっさき)
鋒(きっさき)とは、刀身の先端部分のこと。具体的には、後述する鎬筋(しのぎすじ)と横手筋(よこてすじ)が交わる点よりも上の部分のことを指します。鋒(きっさき)は、敵を直接斬ったり刺したりする部位であるとともに、日本刀の美しさがもっとも際立つ部分でもあります。鋒(きっさき)の出来栄えがその刀の価値を左右するといっても過言ではありません。
・ふくら
ふくらとは、鋒(きっさき)の先端にかけて曲線状になった刃先部を指します。ふくらに丸みがあることを「ふくら付く」「ふくら張る」、丸みが少なく鋭利であることを「ふくら枯れる」と表現します。
・鎬筋(しのぎすじ)
鎬筋とは、刀身の平地(ひらじ)と鎬地(しのぎじ)の境をなす線のこと。鎺(はばき)から刃先に渡って伸びています。
・小鎬筋(こしのぎすじ)
小鎬筋(こしのぎすじ)とは、鎬筋(しのぎすじ)の先端にあたる部分を指します。
・横手筋(よこてすじ)
横手筋とは、鎬筋から刃先に施された、平地(ひらじ)と鋒(きっさき)の境界をなす線のことを指します。
・鎺(はばき)
鎺(はばき)とは、刀と柄をつなぐための金具です。鞘から刃が抜け落ちないようにする役割と、鞘の中に空気が入るのを防いで刃を錆から守る役割があります。
・茎(なかご)
刀身の下部、柄に収まっている部分のことを茎(なかご)と呼びます。茎(なかご)には刃がついていないため、手で直接触っても手が切れることはありません。ですが、そのままでは握りにくいため、柄(つか)に収納して使われていました。茎(なかご)は、作られた時代や流派・刀工の違いが如実に表れる部位で、その刀を作った刀工の名前や製造年月日が刻まれています。
・上身(かみ)
刀身のうち、茎(なかご)以外の部分は「上身(かみ)」と呼ばれています。
・目釘(めくぎ)
目釘(めくぎ)は、刀身が柄(つか)から抜け出さないようにするための留め具です。茎(なかご)は柄(つか)に開けた穴に差し込んであるだけの状態なので、戦闘時に刀身が柄から抜けないように留め具で固定する必要があるのです。武士たちは、万一に備えて自分で作った目釘を常に携帯していたと言います。目釘の素材は竹や鉄が一般的ですが、中には水牛の角や金属製のものもあります。
・目貫(めぬき)
目貫(めぬき)も、刀身が柄(つか)から抜け出さないようにするための留め具です。装飾具としての役割もあります。
●拵(こしらえ):刀剣を保護するための外装部分
拵とは、鞘(さや)や柄(つか)・鍔(つば)などを含めた外装部分を指します。主な役割は刀剣を保護することです。また、製作者や制作年代・制作された地域によっても特徴があり、それらがその刀の威厳や格を表しています。
特に太刀の拵えは、豪華な装飾が施されています。一方で打刀の拵は実戦で使用することを考慮してあまり派手な装飾はされていません。代わりに、美しい彫刻を施すことで威厳を示したとされています。前述したように、拵は複数のパーツで構成されています。ここでは代表的なパーツをご紹介します。
・鞘(さや)
刀身を収める部分のことを鞘(さや)と呼びます。映画などで、武士が敵を前にして刀を鞘から抜くシーンを見たことがあるのではないでしょうか。鞘には、木地を塗装したものや、革で覆ったもの、鮫皮を巻いたものなどがあります。
・柄(つか)
刀を手で握って掴むための部分を柄(つか)と言います。柄(つか)の内部には茎(なかご)がおさめられており、柄(つか)から刀身が抜け落ちないよう目釘や目貫で固定されています。柄(つか)の装丁には鮫皮が用いられることが多く、さらに上から黒漆を塗り、組紐で巻き締めたものが主流です。中には金や銅で作った薄い板を貼っているものなどもあります。
・鍔(つば)
鍔(つば)とは、柄(つか)と上部につけられた装具のことを指します。刀を握る手が上に滑らないよう保護するため、そして刃の重心を調節する役割をしています。鍔(つば)の表面にも多彩な模様や図柄が施されており、その刀が作られた年代や作者・地域によって特徴があります。
まとめ
日本刀は非常に精巧なつくりをした武器で、驚くほど細かくパーツが分けられ、パーツそれぞれに名称がついています。すべて覚えるのは大変ですが、パーツの名称や役割を知っておくと、日本刀の価値を判断したり鑑賞したりする際に役立ちます。また、名称や役割を知ることで、日本刀の持つ奥深い魅力に触れることができます。日本刀にはこの他にもさまざまな種類があるため、興味がある方はぜひ調べてみてください。
刀剣・武具高額買取