モーゼルのボヘミアングラスとは?歴史や魅力、代表作をご紹介
チェコの伝統工芸のひとつ、ボヘミアンガラス。その最高峰として名高いのが、1857年に創業されたガラス工房・モーゼルです。クリスタルガラスではなくカリグラスを原料としたモーゼルのガラス製品は、高い透明度と繊細で美しい紋様が特徴。モーゼルのガラス作品は、ヨーロッパの王室御用達ブランドとしても知られ、今日も世界中で愛されています。この記事では、そんなモーゼルの歴史や特徴・代表的な作品などについてご紹介します。
ボヘミアンガラスとは?モーゼルとは?
ボヘミアンガラスとは
ボヘミアンガラスとは、チェコ西部のボヘミアチ地方で産出される木灰からとれる炭酸カリウムを原料として作られたガラスを指します。天然水晶のような硬度と透明度が特徴です。モーゼルは、そんなボヘミアンガラスの最高峰ブランドとして知られています。
モーゼルとは
モーゼルは、チェコの伝統工芸・ボヘミアンガラスの最高峰ブランドです。まるで天然水晶のように透明度が高いカリクリスタルに繊細な彫刻や色つけを施した作品は、キングオブガラスの名にふさわしい美しさ。その作品たちは、卓越した職人たちによるハンドメイド製法で作られています。1857年の創業から現在に至るまで多くの名作シリーズが生み出され、世界中のコレクターを魅了しています。
ボヘミアングラスの発達とモーゼルの成り立ち
ボヘミアンガラスの始まり
ボヘミアンガラスは、9世紀ごろにスラブ系民族によって築かれたモラヴィア帝国に起源を持つと言われています。モラヴィア帝国はわずか100年ほどで滅亡しましたが、そこで作られていたガラス工芸はボヘミア帝国へと受け継がれ、さらにその技術を発展させていったのです。これがボヘミアンガラスの始まりでした。
その後13世紀には、ボヘミア帝国のガラス工芸技術はさらに向上し、大聖堂のステンドグラスなどの大きな作品も作られるようになりました。また、14世紀後半には吹きガラスによるガラス器の製造も盛んに。
ヨーロッパにおけるガラス工芸の発達とボヘミアンガラス
16世紀になると、当時流行していたイタリアルネッサンスの影響を受けたヴェネチア製法が、ボヘミアにもたらされました。そして、貴族たちの要望によりヴェネチア様式のガラス器が作られるようになりました。
また、時のローマ皇帝ルドルフ2世は、芸術を愛し、なかでもガラス工芸を熱心に保護していました。その中でガラスのエングレーヴィング(ガラスに彫刻を施す作業)に適した、水晶のように硬度が高くて透明なガラスが生まれました。このガラス技術は、ボヘミアの主流な輸出品となり、技術もさらに発達していったのでした。ヨーロッパはもちろんアメリカやアジアにも進出し、多種多様なボヘミアンガラス器が誕生しました。
ボヘミアンガラスの最高峰ブランド、モーゼルの誕生
そのような中で誕生したのが、モーゼルです。モーゼルは、ルードヴィック・モーゼルによってチェコのカルロヴィ・ヴァリで1857年に創設されました。創業当初から腕の良いグラヴィール作家を登用し、卓越した技法で注目を集めました。
人気シリーズの誕生、王室御用達ブランドへ。モーゼルの躍進
1870年以降は、パリやロンドン・ニューヨーク・サンクトペテルブルグなどに出店を果たし、世界中で人気を獲得。1895年には、現在でも人気の代表作「マハラニ」シリーズなどを含む、50の作品シリーズを制作。さらなる注目を集めることとなりました。
また、1898年にはオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフの在位50周年記念グラスを制作。これにより「皇帝御用達」としての地位も確立しました。ほかにも、1907年にはイギリス国王エドワード7世の妻・アレクサンドラ女王にグラスを制作しています。
世界初の色彩ガラスの生成に成功、パリ万博で金賞を受賞
1900年になると、創設者ルードウィック・モーゼルの息子、ルドルフ・モーゼルが2代目に。父ルードウィックが考案した、鉛を一切使わないハンドメイド技法を守り、伝統的な製法で作品作りを行いました。
1910年代以降は、ドイツやイギリスの研究所の協力のもと、希少酸化物(レア・アース)をガラスに混ぜることで天然貴石に似たカラーの開発に力を注ぎます。このプロジェクトは1920年に成功。世界初の色彩ガラスとして注目を集め、1925年のパリ万博では金賞を受賞しました。
現在にも続くボヘミアンガラスの意匠
その後第二次世界大戦中の1931年にモーゼルは国有化されましたが、その技術や意匠は絶えることなく、名作を生み出し続けました。1991年には、株式会社ルードヴィック・モーゼルとして独立。現在でも伝統的なボヘミアンガラスを職人たちが守り続けています。
なお、現在チェコにはモーゼルミュージアムがあります。ボヘミアンガラスがどのように作られているのか、その制作風景をのぞいたり、歴史を学んだりすることができます。もちろんモーゼルのガラス作品を購入することも可能です。
ガラスアートとして世界で人気。モーゼル・ボヘミアングラスの特徴
ボヘミアンガラスはさまざまなブランドが製造していますが、その中でもモーゼルは最高峰。モーゼルは高い技術を持った職人の手により、ハイクオリティで繊細なガラス製品を生み出しています。その作品は「ガラスアート」とも称され、世界中で賞賛されています。
モーゼルの生み出すボヘミアングラスは、高い透明度と硬度が特徴です。原料はクリスタルではなく、ボヘミア地方で算出される木灰。水晶にも匹敵する硬度と透明度ゆえに、宝石彫刻に用いられる技術を使った繊細な装飾も可能なのです。モーゼルでは、ガラスを冷やして最も硬い状態にしてから装飾を施す「コールドワーク」という手法が用いられています。
また、色とりどりのガラス作品も、モーゼルの特徴と言えます。モーゼルは世界で初めて、カリガラスに希土酸化物(レア・アース)を混ぜることによってガラスに宝石のような色合いをつけることに成功したのです。カラフルかつ透明なガラス作品は、思わず見惚れてしまう美しさです。
このほか、モーゼルでは厳しいクオリティチェックを行っています。工房で生み出される完成品の約4割しか世に送り出されません。残りの6割の製品はもう一度溶かされ、新たな製品として生まれ変わります。モーゼルの美しいガラス作品は、こういった多くのこだわりゆえに生み出されているのです。
キングオブガラスの異名。モーゼルの魅力・評価
モーゼルの評価
モーゼルは「キングオブガラス」と呼ばれ、その優雅で繊細な彫刻は、長年に渡り世界中の人々から愛されています。クリスタルガラスではなくカリガラス(原材料に木の灰を用いた製法)にこだわり、製品の美しさと品質を維持しています。また、モーゼルのガラス作品には、ワイングラスやロックグラス・デキャンタ・香水瓶などさまざまな種類があります。透明なガラス製品のみならず、金彩を施したものや、色つけ・絵つけされたものなども存在します。
モーゼルの買取相場
モーゼルの買取価格は、シリーズやモデルによって変動します。状態が良いもの・人気のシリーズであれば、買取価格は高くなります。例えば、人気シリーズ「マラハニ」のグラスの6脚セットで状態が良いものであれば、4万円前後で買取してもらえることも。同シリーズのデザートグラスセットなら、10万円程度の値がつくことも。このほか、希少なアンティークものは買取価格が高くなる傾向があります。
モーゼルグラスの査定ポイント
モーゼルの中でもグラスは人気があります。その査定時には、以下のポイントがチェックされ、買取価格が決定されます。
刻印の有無
モーゼルのガラスには、「Moser」の刻印が刻まれています。査定ではまず刻印を見て、その作品の製造年度や真贋の確認を行います。
商品の状態
次に傷や汚れの有無・色褪せなど、状態を確認します。新品かつ未使用でコンディションの良いものは、買取価格が高くなります。反対に、コンディションが悪く食器として使用するのが難しい状態のものは、人気シリーズでも買取してもらえない場合も。
箱・説明書など付属品の有無
グラス単体でも買取は可能ですが、専用の箱・取り扱い説明書など、付属品が揃っている方が買取価格は高くなります。
なお、モーゼルのガラス作品はシリーズによって価値が大きく違います。査定や買取は、きちんと知識を持ったプロのいる専門店に任せることをおすすめします。
美術品高額買取
モーゼルの代表作の紹介
以下、モーゼルの作品を3つご紹介します。
グラス12点セット
専用ケースに収められた12種類のグラスはそれぞれ細部にまでモーゼルの技術を注ぎ込まれています。グラスの形状や繊細な金彩表現など魅了されるグラスがひと箱に込められたアンティーク作品
フクロウ文花瓶
幸福の象徴「フクロウ」を花瓶に造形した作品は芸術性も高く、贈答用としても人気のある作品
金彩ガラス皿
プレーをの周囲に金彩が施されさらに繊細なカットも美しいプレート
まとめ
チェコのボヘミア地方の伝統工芸、ボヘミアンガラス。モーゼルは、ボヘミアンガラスの最高峰ブランドにして、ボヘミアンガラスの美しさを世界に広めた功労者でもあります。透明度の高さ・繊細な文様は、まさにキングオブガラスの名にふさわしい気品にあふれています。
現在でもモーゼルのガラス作品は世界中で人気があります。おうちにモーゼルのガラス器が眠っているという方は、ぜひ一度専門店に査定に出してみてはいかがでしょうか。
古美術八光堂