日本刀・刀剣はどう鑑定される?鑑定機関や鑑定方法をご紹介
かつては戦において武器として使用されてきた日本刀や刀剣。現在では、日本刀や刀剣は美術品とされ、中には高い価値がついているものも存在します。でも、その価値は誰によってどのように鑑定されるのでしょうか?この記事では、日本刀や刀剣の鑑定を行う機関やその鑑定基準・鑑定区分などを解説します。あわせて、相続などで刀剣を入手した場合やご自宅で刀剣を発見した場合の対処方法などについてもご紹介しています。ぜひ参考にしてください。
日本刀や刀剣の鑑定をする機関とは?
今の時代、日本刀や刀剣は「美術品」という観点から価値を判定されています。まずは日本刀や刀剣の鑑定を行っている機関をご紹介します。
日本国が鑑定することも
日本では長い歴史の中で育まれ継承されてきた国民的財産を「文化財」と位置付けています。日本刀や刀剣もそのひとつで、これらは有形文化財の工芸品として指定されています。その中で、特に重要度が高いと文部科学大臣から指定を受けたものを「重要文化財」、さらにその中で文化史的に価値が高いものを「国宝」と言います。このほか、国宝に準ずる美術的価値を有しているものは「重要美術品」として指定されています。ただし、1950年に文化財保護法が制定されたことにより、「重要美術品」の多くは「重要文化財」へと繰り上げられました。しかし繰り上げられなかったものは現在でも「重要美術品」と呼ばれています。
公益財団法人「日本美術刀剣保存協会」による鑑定も
日本刀や刀剣の鑑定を行っている機関は、国内にいくつか存在します。中でも最も信頼性が高いのが、日本美術刀剣保存協会です。日本美術刀剣保存協会は、1948年(昭和23年)に設立された財団法人で、文部大臣の認可を受けている唯一の機関です。刀剣類や刀装・刀装具などの鑑定・指定・台帳作成といった業務のほか、刀剣類の所在を明らかにし、重要な刀剣類については図譜の作成をすることで整備を行なっています。また、刀剣博物館での展示活動や刀剣に関する相談も実施しています。
その他の団体による鑑定も行われている
国内で刀剣の鑑定を行っている機関としては、上述の日本美術刀剣保存協会の他にも、特別非営利活動法人(NPO法人)である日本刀剣保存会が知られています。日本刀剣保存会は、文化遺産である日本刀剣を後世に伝え、日本文化の振興を促進するために誕生した団体です。月に一度、刀剣の鑑定会を実施しており、鑑定書の発行を行なっています。この刀剣鑑定会は、申し込みをすれば一般の方や専門店などが利用できます。
刀の評価と鑑定区分について
日本国や日本美術刀剣保存協会は、日本刀や刀剣の鑑定を行い、それぞれ基準に従って価値を判断し、区分を行なっています。
国の鑑定による鑑定区分
国による日本刀や刀剣の鑑定においては、日本刀や刀剣は以下のような区分に分類されます。
重要文化財
1950年に文化財保護法が制定され、歴史的・文化的に価値が高い文化財に対して国による指定・保護が行われることとなりました。日本刀や刀剣は有形文化財の工芸品に該当し、そのうち文部科学大臣が重要と判断したものは「重要文化財」に指定されます。なお、重要文化財に指定されている刀剣としては、南北朝時代の太刀「備州長船住成家」などがあります。
国宝
上述の重要文化財のうち、特に文化史的に価値の高いものは国宝に指定されます。なお、日本刀の中で国宝に指定されているものとしては、鎌倉時代末期の短刀「来国光」などがあります。
重要美術品
重要美術品とは、1933年に制定された「重要美術品等の保存に関する法律」によって認定をうけた美術品のこと。しかしこの法は、1950年に文化財保護法が制定されるとともに廃止されました。そして、重要美術品に指定されていた美術品の多くは重要文化財へと繰り上げられました。しかし中には繰り上げがされなかったものもあり、これらはいまだに重要美術品と呼ばれています。なお、重要美術品に指定されている日本刀には、鎌倉時代中期の太刀「吉房」などがあります。
日本美術刀剣保存協会による鑑定区分
公益財団法人・日本美術刀剣保存協会でも、文部科学大臣の許可のもとに優れた刀剣に対して評価を行なっています。こちらの鑑定区分は以下となります。
重要刀剣
重要刀剣とは、平安時代から江戸時代にかけて作られた刀剣のうち、特に出来栄えがよく保存状態に優れているものを指します、重要刀剣は、国指定の重要美術品と同等の価値があると判断されます。
特別重要刀剣
特別重要刀剣とは、重要刀剣の中でも特に出来栄えがよく、保存状態に優れたものを指します。特別重要刀剣は、国指定の重要美術品の上位と同等の価値があると判断されます。
保存刀剣
保存刀剣とは、江戸時代までにつくられた在銘の刀剣で、傷や補修があっても美観を損なわないものを指します。無銘の場合でも、質・保存状態が良好であり制作された年代や国・系譜が読み取れるものも対象となります。明治時代〜大正時代に制作されたものでも、在銘で優れた刀剣であれば選出されることもあります。
特別保存刀剣
特別保存刀剣とは、保存刀剣の中でひときわ保存状態がよく、保存刀剣の中でも出来栄えの良いものを指します。
貴重刀剣と特別貴重刀剣
貴重刀剣・特別貴重刀剣も日本美術刀剣保存協会による評価ではありますが、現在はこの区分は廃止されています。同協会は1948年から認定制度を設けて鑑定を行なっていますが、1982年に鑑定制度の変更が行われ、その際に貴重刀剣・特別貴重刀剣という区分にも見直しがなされたのです。そのため、現在では貴重刀剣・特別貴重刀剣という認定書は評価効力がありません。
つまり、現在同協会による鑑定区分は、重要刀剣・特別重要刀剣・保存刀剣・特別保存刀剣の4区分となります。
お手持ちの刀剣に「貴重刀剣」「特別貴重刀剣」の鑑定書がついている場合は、正しい評価を受けるためにあらためて同協会の鑑定を受けることをおすすめします。
刀の鑑定後に発行される鑑定書とは?
日本刀や刀剣の鑑定を受けると、「鑑定書」が発行されます。この鑑定書とはどのような内容でどのような効力を持つのでしょうか。
国の鑑定書
国宝に指定されたものには「国定指定書」が、重要文化財に指定されたものには「重要文化財指定書」が発行されます。発行元は文化財保護委員会です。
日本美術刀剣保存協会の鑑定書
公益財団法人・日本美術刀剣保存協会が発行する証書には、「認定書」「鑑定書」「指定書」の3種類があります。ただし、「認定書」が発行されていたのは1948年から1982年までのことで、現在は認定書制度は廃止されています。
認定書
「貴重刀剣・刀装・刀装具」「特別貴重刀剣・刀装・刀装具」「甲種特別貴重刀剣・刀装・刀装具」の3種類があります。ただし、現在認定書制度は廃止されています。
鑑定書
「保存刀剣・刀装・刀装具」「特別保存刀剣・刀装・刀装具」の2種類があります。
指定書
「重要刀剣・刀装・刀装具」「特別重要刀剣・刀装・刀装具」の2種類があります
日本刀保存協会をはじめとする民間機関の鑑定書
日本刀保存協会など、民間の鑑定機関でも独自の鑑定基準をもとに日本刀や刀剣の鑑定を行い、鑑定書を発行しています。
鑑定書と登録書の違いとは?
日本刀や刀剣の「鑑定書」は、「登録証」とは別物です。登録書は、正式には「銃砲刀剣類登録証」といいます。日本刀や刀剣の中でも美術品として価値があるものに対して、各都道府県の教育委員会が発行するものです。登録書には、その刀の種別や長さ・反り・銘文などのデータが記載されています。登録書があって初めて美術品としてその刀を所持したり、専門店に売却したり美術館に寄贈したりすることができます。
なお、登録書については、記事の後半で詳しく解説しています。
刀を鑑定する際の6つのポイント
日本刀や刀剣の鑑定では、さまざまな観点から多角的に価値を評価します。以下のようなポイントがチェックされます。
在銘か無銘か
第一にチェックされるのは、刀に銘があるかどうか。銘とは製作者のサインのようなもので、銘を見れば誰が作った刀剣なのかがわかります。その刀剣の価値を決める重要な要素と言えます。銘は、刀を上向きにした中央部分・もしくは茎(なかご・刀身の柄に入った部分)に入れられていることもあります。在銘の場合はその真偽を確かめる作業を、無銘の場合は銘をつきとめる作業を行います。
在銘の場合、銘の真偽を確かめる
在銘の場合、その銘が正しいものであるかどうかのチェックが行われます。銘に記された作者名・制作された国・流派などをもとに、製作者の作風と一致するか・その時代の作柄であるかなどを審議します。
無銘の場合、銘をつきとめる作業を行う
無銘の場合、銘をつきとめるための作業を行います。この作業では、刀剣をおおよそ古刀期(1596年以前)のものか新刀期(1596年以降)のものなかに分類し、刃の状態を見ます。刀に特殊なライトを当てて刃紋を確認し、制作された国や流派・作者を推定します。
刀装のチェックとランク付け
刀装とは、刀剣の柄や鞘などのことを指します。これらの状態も、鑑定においてとても重要な要素です。作られた当時の形を維持しているかどうか、保存状態はどうかなどをチェックし、その刀装が「保存刀装」「特別保存刀装」「重要刀装」「特別重要刀装」のどのランクに位置づけられるか検討します。
茎(なかご・刀身の柄に入った部分)のチェックと流派分け
茎(なかご・刀身の柄に入った部分)には作者や地域によって特長があるため、茎を見ることで流派を推定・見分けることができます。
刀剣の外観全体をチェック
日本刀は作られた時代によって形状が異なり、また地域や流派によっても作風が異なります。
刀の格付けについて
刀剣には、作り込みや質によって格付けが存在します。
最上大業物(さいじょう おおわざもの)
日本刀の中でも特に切れ味が鋭く、秀でたものを指します。優れた刀匠でも必ず打てる保証がないほど、格が高いものとされています。なお、最上大業物と大業物は、死刑になった罪人の死体を使って行う試し斬りによって判定されていました。
大業物(おおわざもの)
最上大業物ほどではないが切れ味が鋭く、優れたものを指します。
業物 (わざもの)
上等物ともいわれ、切れ味の鋭い良質なものを指します。優れた武士はこのランクのものを所有していたとされています。
準業物(じゅんわざもの)
「並」に相当するものを指します。一般の武士はこのランクのものを所有していたとされています。
なまくら
包丁よりは鋭いものの、日本刀としては物足りない切れ味のものを指します。
無銘の刀に価値はない?鑑定が付かなかった場合の対処方法
ここまでご紹介したように、刀剣の中には無銘のものも存在しています。刀剣にとって在銘であることは重要な意味を持つため、無銘の刀剣は一般的に価値が低いと評価され、買取専門店に出したとしても高値はつきにくい傾向にあります。もしも刀剣を相続したものの無銘だった場合や、ご自宅での無銘の刀剣を発見した場合にはどうしたらよいのでしょうか。その対処方法をご紹介します。
まずは登録証の有無を確認しましょう
まずは登録証の有無を確認しましょう。ここでいう登録証とは、各都道府県の教育委員会が交付する「銃砲刀剣類登録証」のこと。この登録証は、刀剣・日本刀の中でも美術的価値があるものだけに交付されます。
登録証がある場合はどうすればいい?
登録証があったら、その内容と刀剣が一致しているか確認を。まれに登録証が改ざんされているケースもあり、そうなると登録し直し・登録証の再交付が必要です。登録証には、その刀剣の種別(太刀・打刀・短刀…など、その刀剣の種類)や長さ・反り・銘文などのデータが記載されていますので、刀剣と照らし合わせてみてください。登録証が正しいことがわかれば、美術品として所持したり、不要な場合は専門店に売ったり美術館に寄贈したり警察署に届けて処分してもらったりすることができます。
登録証がない場合はどうすればいい?
登録証がない場合は、登録証の申請を行う必要があります。なぜなら、登録証がない状態で刀を所持していると、銃刀法(鐵房刀剣類所持等取締法)に抵触してしまうからです。
登録証がない場合は、以下のように対処してください。
まずは最寄りの警察署の生活安全課に電話し、登録証のない刀剣を発見した旨を伝えてください。この際には、刀剣を発見した状況の写真の提出を求められることもありますので、発見後はできるだけ刀剣に触らず動かさないようにしましょう。
その後、案内にしたがって警察署に行き、所定の手続きを行って「刀剣類発見届出済証」を交付してもらいます。なお、これらの手続きは、発見者本人が行わなければなりません。手続きの際は本人確認のできる身分証明書と印鑑が必要です。
② お住まいの地域の教育委員会が実施する登録会で登録書を申請する
「刀剣類発見届出済証」を取得したら、都道府県の教育委員会が実施する登録会で登録証の申請を行います。登録会は定期的に行われているので、お住まいの地域の教育委員会のサイトなどで日程を確認してみてください。なお、登録書の申請は、刀剣類発見届出済証の交付から20日以内に行う必要があります。また、審査と登録には6,300円の手数料がかかります。
再度鑑定依頼をするのもおすすめ
所有している無銘の刀剣を過去に鑑定してもらったことがあり、その際に価値がつかなかったという方もいらっしゃるかと思います。そんな方は、再度専門の鑑定士がいる骨董品買取店で鑑定依頼をしてみるのもおすすめです。
まとめ
今回は、日本刀や刀剣の鑑定についてご紹介しました。日本刀や刀剣は、厳しい判断基準によって鑑定されており、鑑定証をみればその格がわかるようになっています。
皆さんの中には、過去に所有している日本刀や刀剣を鑑定機関で鑑定してもらったことがあり、その際に価値がつかなかったという方もいらっしゃるかと思います。そんな方は、あらためて専門の鑑定士がいる骨董品買取店で鑑定依頼をしてみてはいかがでしょうか。