38歳でこの世を去った天才画家、有元利夫。作風や代表作は?
洋画でも日本画でもない、幻想的な表現世界を切り開いた画家として一世を風靡した有元利夫。学生時代に訪れたイタリアで出会ったフレスコ画に魅了され、その意匠に岩絵具や金箔などを取り入れて独自の表現へと落とし込みました。38歳の若さでこの世を去るも、彼が日本の洋画界に残した功績ははかりしれません。今回は、そんな有元利夫の生い立ちや作風の特長・評価・代表作などについてご紹介します。
有元利夫の生い立ち
▲有元利夫が学生時代に訪れ、多大な影響をうけたイタリアの地
幼い頃から油絵に親しみ、絵画の才能をあらわした
有元利夫は、1946年(昭和21年)岡山県津山市小田中に生まれました。東京で育ち、幼い頃から油絵に親しみます。特にゴッホを好み、強い興味を抱いていたと言われています。
1953年(昭和28年)小学校在校中には、絵画コンクールに出品した「友人(木版画)」が、最優秀賞に選ばれ知事賞を受賞しました。
1962年(昭和37年)在学中の駒込高等学校で、当時東京藝術大学の院生だった版画家の中林忠良と出会います。これが有元利夫を芸術家への道に進ませるきっかけとなりました。
イタリアのフレスコ画に魅了された美術大学生時代
1969年(昭和44年)、有元利夫は5度目の挑戦で東京藝術大学美術学部デザイン科入学します。
在学中には初めての海外旅行でヨーロッパへ行き、イタリアのフレスコ画・カタコンベに深く心を動かされました。この出会いは、後の有元利夫の画風に大きな影響を与えるものとなりました。帰国後、有元利夫はフレスコ画と同様の質感を求めて岩絵具や顔料を色材に、アクリルや膠を媒材として用いるようになっています。また、経年劣化とともに風化して新しい風合いを見せていくフレスコ画と日本の仏画に共通点を見出し、自然と仏画も目を向けるようになったといいます。
このほか、学生時代の有元利夫は、イタリアルネサンス期の画家であるピエロ・デラ・フランチェスカにも大きな影響を受けました。古本屋で彼の画集を見つけたことがきっかけでした。そして、卒業制作では、ピエロ・デラ・フランチェスカを引用した、「私にとってのピエロ・デラ・フランチェスカ」という10点連作の作品を発表。この作品の独特なスタイルは大きな評価を受け、大学の買い上げとなりました。
広告代理店でのデザイナーを経て、画業一本の道へ
大学を卒業した有元利夫は、大手広告代理店にデザイナーとして入社。1975年(昭和50年)初個展を開催しています。その後、1976年(昭和51年)に広告代理店を退社。母校の東京藝術大学で非常勤講師をしながら、画業一本に打ち込む生活を送ります。また、各地で精力的に展示会や個展を開催しました。1978年(昭和53年)には、「花降る日」が第21回安井賞特別賞受賞しています。
多数の作品が名だたる賞を受賞
有元利夫は、以降も各地で展示会を開いたり展覧会に出品したりしながら、多数の作品を作り続けました。その作品は日本の洋画に新たな風を吹き込むものとして、期待されていました。
その中で、多くの作品が名だたる賞を受賞しています。1981年(昭和56年)には「室内楽」で第24回安井賞を受賞。1983年(昭和58年)には第2回美術文化振興協会賞受賞。さらに、1984年(昭和59年)には第1回日本青年画家展が日本橋三越で開かれ、優秀賞を受賞しています。しかし同年11月に体調を崩して入院。1985年(昭和60年)肝臓癌により、38歳の若さで死去しました。
フレスコ画に日本の仏画の技法を融合。有元利夫の作品の特長
▲イタリアミラノにあるフレスコ画
学生時代に訪れたイタリアで出会ったフレスコ画に魅了された有元利夫は、そこに岩絵具や箔・金泥などといった日本の仏画に用いられる画材を取り込み、独特の油彩技法を生み出しました。キャンバスに剝落を施したり額縁に虫食いの穴を空けたりと、絵画が風化していく様相を作品に組み込んだのも、有元作品の特長です。絵の題材には、花や音楽・女神・手品・花火などのモチーフが多く用いられています。幻想的ながらどこか素朴な画情をたたえた作風と世界観が生み出されています。また、有元利夫は絵画だけでなく、塑像や木彫・陶器・版画など、さまざまな表現を試みていました。
作品の希少性が高い、有元利夫の評価
▲フレスコ画と同様、有元利夫が魅了され研究した仏画
画壇の寵児と将来を期待されながら38歳という若さでこの世を去った有元利夫。生涯を通じて残した作品は371点。作品数が少ないため希少価値が高く、その分高値で取引されています。版画6作品の偽作が流通していることからも、その価値の高さが伺えます。
有元利夫の才覚は、若い頃から突出していました。学生時代の卒業制作「私にとってのピエロ・デラ・フランチェスカ」という10点連作は、大きな評価を受け大学買い上げに。また、「画壇の芥川賞」ともいえる安井賞を受賞しています。1978年(昭和53年)に安井賞特別賞を受賞した「花降る日」は、バベルの塔のようなモチーフが印象的です。
没後25年を記念した展示会が東京都庭園美術館で開催され、多くのファンを魅了しました。
また、2020年6月から8月には、没後35年を記念した展示会が東京都渋谷区にある「ザ・ミュージアム」で開催予定でした。こちらの展示会はコロナウイルス感染症拡大の影響により残念ながら中止になってしまいましたが、あらためての開催が望まれています。
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有元利夫の代表作
有元利夫の代表的な作品を5つご紹介します。
花降る日
「花降る日」は、有元利夫の作品の中でも特に有名なもののひとつです。この作品は、1978年(昭和53年)に安井賞特別賞を受賞しています。
室内楽
「室内楽」は、昭和55年に描かれた作品です。この作品は1981年(昭和56年)に第24回安井賞を受賞しています。
厳格なカノン
「厳格なカノン」は、1980年に発表された作品です。作家の宮本輝氏の小説「愉楽の園」の表紙に用いられていることでも知られています。
遊戯の部屋
エッチング「七つの音楽」
まとめ
伝統的なフラスコ画に絵具や箔・金泥を用いることで、幻想的かつ抒情的な世界を構築した有元利夫。日本の洋画界に新しい領域をもたらし、その作品は現在でも愛され続けています。
そんな有元利夫の作品は、数が少なく希少性が高いことから、買取専門店などでも高値で取引される傾向があります。ご自宅に有元作品をお持ちの方は、ぜひ一度専門店で査定を受けてみてはいかがでしょうか。
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