「幻の陶磁器」と呼ばれるセーブル磁器。フランスの誇り高き最高級品
セーブル磁器はフランスを代表する陶磁器です。1738年にフランス・ヴァンセンヌに設立した窯が前身で、後にルイ15世の庇護を受け王立セーブル製陶所となりました。以来、国窯としてフランス独自の意匠を確立し、時代を反映した完成度の高い芸術作品を作り続けています。
少量生産であり、100人ほどの職人たちが年間6000ピース程度しか生産していません。そのため「幻の陶磁器」と呼ばれ、非常に価値が高い陶磁器です。
この記事では、華やかさや気高さなど、パリの美意識が詰まったセーブル磁器の成り立ちや魅力についてご紹介します。
セーブル磁器の歴史
▲セーブルが生まれたヴァンセンヌのランドマーク「ヴァンセンヌ城」
まずはセーブル陶器の歴史や成り立ちについて詳しく解説します。
セーブル磁器の成り立ち。ドイツのマイセンに対抗
セーブル磁器は、1738年にフランス・パリ東部のヴァンセンヌに設立されたヴァンセンヌ窯が前身です。ヴァンセンヌ窯はドイツ・マイセン窯に匹敵する製品を製造するため、日本の古伊万里や柿右衛門の写しに定評のあったデュボア兄弟が、フランスのルイ15世の支援を受けて設立したもの。しかし当初はそれほど高く評価されませんでした。1742年に陶工のフランソワ・グラヴァンが組織を再編成したことで軟質磁器であるソフト・ペーストの技術が飛躍的に向上。多くの貴族たちから注目を集めることになりました。
ルイ15世とポンパドゥール夫人の庇護により発展
セーブル磁器の歴史に欠かすことのできない人物といえば、ルイ15世の公妾であるポンパドゥール夫人です。芸術に教養が深いポンパドゥール夫人の進言によりヴァンセンヌの陶器製造は1751年に独占事業として保護され、他の製造所での陶器製作が禁じられました。1756年、ヴァンセンヌ窯はポンパドゥール夫人の住むベルヴュー城に近い町セーブルへ移転し、1759年には「王立セーブル製陶所」となりました。ポンパドゥール夫人はセーブル磁器の発展に尽力。一流の科学者や芸術家を招くだけではなく、自ら工房で監督を行うなど、惜しみない援助を行いました。ルイ15世からは金彩と色絵の独占使用の勅許を受け、セーブル製陶所は王侯貴族のための贅沢品を生み出していきます。
このようにセーブル磁器は名実ともにフランスを代表する磁器となり、王室から他国への贈り物などに盛んに用いられるようになりました。
フランス革命で閉窯も、ナポレオンにより再建
1789年、フランス革命が勃発。国王の支援を受けて開窯したという経緯からセーブル窯は破壊され、閉窯を余儀なくされました。
しかし1804年、ナポレオン1世により「国立セーブル製陶所」として再興されます。ポンパドゥール夫人時代は豊かな彩色と繊細な金彩を施したロココ趣味が主流でしたが、ナポレオン好みのアンピエール様式を取り入れた荘厳なスタイルに変化していきました。
1876年、パリのセーヌ川沿いのサン・クルー公園に隣接した敷地に「国立セーブル陶磁器製作所」が建てられ、現在でも職人たちが高級磁器の製作を行っています。生産量は年間6000ピースに限定し、フランスのオフィシャルギフトされていることで一般には流通せず、「幻の陶磁器」と呼ばれています。
セーブル磁器の作品の特長は?
▲セーブル磁器のデザインの基となったロココ様式
「幻の陶磁器」とも言われるセーブル磁器とは、どのような特長を持っているのでしょうか?以下詳しく解説します。
時代を反映したフランス独自の意匠を確立
ルイ15世により国窯として保護されたセーブル磁器は、一流の化学者、画家、彫刻家、金工家が集められ、ベルサイユ宮殿にふさわしい華麗で豪奢な陶磁器を制作していきます。当時マイセン窯など他のヨーロッパの磁器製造は東洋磁器の模倣に力を注いでいましたが、セーブル磁器のデザインはブルボン王朝で好まれていたロココ様式に徹します。画家のブーシェやヴァトー風の風景画やブーケ模様のような装飾的で甘美なデザインに加えて、縁を金彩で彩った豪華なデザインが多く作られました。フランス革命後はナポレオン好みのアンピエール様式、エジプトやギリシャ風の荘厳なスタイルへと変化。時代に合わせたフランス独自の意匠を施していきます。
セーブル磁器の成形法は、ろくろ、ビスケット、張り合わせ、塗り込みの4つの方法で作られます。すべてのプロセスは熟練した専門家が担当しており、現在でも高い品質を保持しています。
高級感のある神秘的なブルーが魅力
セーブル磁器の特長の1つは、神秘的なブルーを使用した作品が多いこと。
酸化コバルトを顔料とした濃紺色の「ブリュ・ド・ロワ(国王の青)」、雲状のぼかしが特徴的な「クラウデッド・ブルー」、「ファット・ブルー」、「アガサ・ブルー」など、多種多様な青色の表現が魅力です。
艶のある地色は刷毛で塗られ、色により重ね塗り・たたき・こすりなど、さまざまな技法が使い分けられています。熟練した技術により、艶のある美しい素地が作られます。その後、数千種類の絵具を使い、花・鳥・城・森などのモチーフを描き出します。
縁の部分にあしらわれた繊細な金彩文様は千種類にも及ぶといわれています。金彩職人がオリジナルの転写紙を使い24金を刷り込んだ後、再び刷毛で金彩を施します。焼成後、瑪瑙職人が磨き上げることで、量感にあふれた贅沢な輝きが完成します。
セーブル磁器の評価は?フランスが作り上げた誇り高き最高級品
セーブル磁器は、フランスが国の威信をかけて作り上げた陶磁器であり、最高峰の陶器として高い評価を得ています。現在でも年間約6000ピースしか制作されず、そのほとんどが外交の献上品に用いられるなどフランス国家のために作られるため、一般に出回ることはほとんどありません。
そのため希少性は非常に高く、幻の陶磁器ともいわれています。中でも伝統的で芸術性の高い「クラウデッド・ブルー」「ファット・ブルー」「アガサ・ブルー」と呼ばれる3つのシリーズは非常に人気です。
18世紀のセーブル磁器はさらに希少価値が高く、初期作品である1770年以前の軟質磁器であればかなりの高価買取が期待できます。
現在の新品の参考価格は平均が3万円。オークションでの平均価格は12万円となっています。
芸術性と希少性、どちらの観点からも価値が高いセーブル磁器は、コレクターにとって憧れの陶磁器といっても過言ではありません。
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セーブル磁器の代表作
最後にセーブル磁器の代表作をご紹介します。
セーブル アガサ・ブルー
「アガサ・ブルー」は独特な水色が特長のシリーズです。透明感と深みが同居する美しく高貴な色合いを出すには高度な技術が必要とされるため、セーブル磁器の中でも生産が限られています。
焼き付け後は職人により瑪瑙や赤鉄石を使った技術で丁寧に磨かれることで、器全体にサテンのような柔らかい輝きがもたらされています。
セーブル クラウデッド・ブルー
「クラウテッド・ブルー」は神秘的な濃紺色の素地に雲のようなぼかしが特長的なシリーズです。着色と乾燥を2度行った後、刷毛で均一に修正し、さらに色を決めるために高温で焼きつけます。2度目のコバルト着色のときに絵の具をこすることで雲状の表現ができるといわれています。
セーブル ファット・ブルー
「ファット・ブルー」は均一に表現された濃紺色が特長のシリーズで、別名「王者の青」とも呼ばれています。コバルト焼成を3回繰り返すことで生まれる深みのあるブルーは、縁にあしらう金彩が映え、気品と風格を感じさせます。セーブル磁器の中でも特に人気が高い作品となっています。
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まとめ
「幻の陶磁器」と称されるセーブル磁器は、名実ともにフランスを代表する陶磁器です。現在でも徹底した品質管理のもと、最高の作品のために誇り高き職人たちが1点1点丁寧に作り上げています。
そんなセーブル磁器の作品は買取市場でも人気が高く、作品によっては高額で取引されています。キズや汚れがあっても、査定額が高くなる作品も数多くあります。セーブル磁器の作品の買取を検討されている方は、ぜひ一度ご相談ください。
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