有田焼を代表する作家・井上萬二。人間国宝として白磁の造形美を追い求める
井上萬二(いのうえ・まんじ)は有田焼を代表する陶芸家です。有田焼の中でも純白の地肌を見せる白磁を制作し、柔らかで滑らかな造形だけで端正さ・温かさ・凛とした風格を表現しています。その作品には卓越したろくろ技術と、こだわり抜いた美意識が現れています。
自らの制作の傍ら、日本のみならず海外でも積極的に作陶指導を行っています。究極の美を表現した質の高い作品と日本の伝統工芸の在り方を世界に伝える活動が高く評価され、1995年には人間国宝に讃えられました。
この記事では、90歳を超えた今でも作品を作り続けている井上萬二の生い立ちから作品の魅力についてご紹介します。
井上萬二のプロフィール
井上萬二の生い立ち。有田焼の窯元に生まれる
井上萬二は1929年佐賀県有田町に生まれました。家は祖父が開いた有田焼の窯元でしたが、萬二は軍人を志します。1944年15歳で海軍予科練に。復員後は17歳で父親が勧めた柿右衛門窯で働き始めました。
修行を始めて7年目に転機が訪れます。それは、大物ろくろ師とうたわれ後に国の無形文化財に指定された初代奥川忠右衛門(おくがわ・ちゅうえもん)との出会いでした。初めて見る技術の高さに身震いし、奥川の門下生となり白磁やろくろの技法を学びました。この出会いの衝撃が、その後の井上の制作の土台となったのです。
精力的な作品作り。高い技術は海外での活動へ
1958年、10年ほど勤めた柿右衛門窯を退社。より技術を磨くために佐賀県立窯業試験場の技官を13年間務め、陶土や釉薬(うわぐすり)、築炉、焼成など、焼き物をあらゆる角度から研究しました。その後は自らの窯に入り作陶に専念します。
独立と同時に精力的に作品を発表し続け、佐賀県展では入選入賞・知事賞・美術協会賞・県選抜展2回出品というように、多くの賞を受賞していきました。
作陶技術の高さが海外からも認められ、1969年3月から5ヶ月間、アメリカのペンシルバニア州立大学美術学科で有田焼の派遣講師として招かれ作陶指導を行いました。その後も自らの制作の傍らアメリカ・ヨーロッパなど世界各国に作品の出展や講師として現地に赴き、日本の伝統工芸の技術と在り方を世界に伝えていきました。教え子の数は日本では500人、アメリカにも150人を越えているといいます。
功績が評価され、晩年は人間国宝など名誉ある賞に讃えられる
1971年に日本陶芸展に入選したことで、2000年までの間にカナダ、アメリカ巡回展、南米巡回展に招待作品として出品されることとなりました。ドイツやハンガリー、モナコでも個展を行っています。
確かな技術と国内外での功績が讃えられ、1995年66歳の頃、人間国宝である重要無形文化財指定という栄誉を得、名実ともに白磁の第一人者としての地位を築きました。さらに1997年11月には紫綬褒章を受章します。
90歳を越えた現在でも創作意欲は衰えることはありません。佐賀県有田町で息子の井上康徳(いのうえ・やすのり)・孫の井上祐希(いのうえ・ゆうき)と共に井上萬二窯とギャラリーを構え、日々白磁に徹するという独特の制作方法を続けています。
井上萬二の作品の特徴
白磁の造形美にこだわり続け、無色の中に美を表現
井上萬二の作品の特徴は、なんといっても造形の美しさにあります。萬二が制作するのは16世紀末に生み出された日本初の磁器である有田焼に、無色透明の釉薬によって独特のつやをまとった白磁です。端正な中にも柔らかさやぬくもりを感じさせる作品は、高度なろくろ技術に基づいて作られています。「良い焼き物には雑念がない」とし、己を厳しく律しながら自分にしか作れないシンプルな造形美を追求しています。つややかな白い地肌に品格あるたたずまいが唯一無二の存在感を放っています。
実用の中に美を見出す
萬二の作品は器や花瓶・壺・大皿などの観賞用のものに注目が集まりますが、食器も多く手掛けています。「有田焼は食文化とともにあるもの」という信念を持ち、制作される器は使用するときの手触りや重量感、口に触れたときの心地よさにこだわっています。美しさだけではなく、「用の美としての器」が理想だと考え、確かな技術と美的感覚で最高の作品を作り続けているのです。
井上萬二の評価は?技術の高さで名誉ある賞を受賞し、世界から高く評価
井上萬二は有田焼を代表する作家と呼ばれています。一切の装飾を行なわず形のみを突き詰め、無色の中に美を表現する白磁の世界。その技術力の高さは、人間国宝である重要無形文化財「白磁」保持者であることや、紫綬褒章受賞・旭日中綬章受章といった輝かしい経歴が証明しています。日本のみならず海外からの評価も高く、ドイツ・ハンガリー・アメリカ・モナコなど世界中で展覧会が開催されているほど。
買取市場においても芸術性の高い萬二の作品は需要が高く、壺・ぐい呑・湯呑・花瓶・茶碗や皿など、あらゆる作品が高額で取引されています。買取店では数万円~数十万円という評価が相場ですが、貴重な作品はさらに高値が付くことも。
白磁高額買取
陶器高額買取
井上萬二の代表作
白磁青海波文丸形壷
開窯50年記念作品。萬二の代名詞ともいえる丸形の壺全体に青海波を施すという新たな試みの作品です。
白磁染彩釉草花文珈琲碗
2021年に制作されたティーカップです。井二作品には珍しく、カップやソーサーに上品な草花の絵付けがなされています。
白磁朝顔形鉢
小鉢自体で朝顔の形を表現した作品です。器の大きさは約13.8cm、高さは7cmと手になじみやすく、上品なフォルムに仕上がっています。
白磁渦文 花瓶
口部かららせん状の文様が流線型を描いている花瓶です。鳴門海峡の渦潮から着想を得たとされています。
白磁百合口 花瓶
口部が百合の花びらのように広がっている優美な造形をした花瓶です。88歳の米寿を記念して制作されました。
白磁丸形 壺
萬二が90歳の卒寿を記念して制作された作品。カーブの頂点や口部の開きなど、こだわり抜かれたバランスで美しく凛とした雰囲気を醸し出しています。
青白磁珈琲碗
錦花鳥文壷
まとめ
井上萬二は、完全さが求められる白磁の世界でストイックに美しい形のみを追い求めてきました。卓越した技術と美意識で最高の作品を作ることを使命とし、現在もなお新しい作品を生み出し続けています。
国内外で高い評価を得る井上萬二の作品は買取査定の評価が高い作家の一人です。キズや汚れがついた作品であっても、作品によっては高値で取引されています。井上萬二の作品の買取を検討している方は、お気軽にご相談ください。
白磁高額買取
陶器高額買取