竹工芸・花籠と田邊竹雲斎
竹工芸・花籠と田邊竹雲斎
日本の美といえる、さらりと軽く、繊細且つしなやかな線―。古くから日本の様々な生活の場に欠かせない、馴染み深い味わいの竹工芸(ちくこうげい)は、今、世界からの熱い注目を浴びています。今回は、そんな竹工芸の世界と、現在まで120年にわたり代々伝統と革新的な技で活躍されてきた竹芸家「田邊竹雲斎」について、ご紹介いたします。
日本人と竹工芸
みなさまは竹というとどのような製品を想像しますか?カゴやザルなど、日本の風土と馴染み深い竹の歴史は古く、縄文時代から素材として共に歩んできました。
現在、竹工芸と呼ばれるものには、古来から日本の伝統を受け継ぐものから、日用品の枠を超えて芸術作品としてまで多岐にわたっています。今回はその中でも芸術分野における竹工芸のルーツについてお話いたします。
誕生のきっかけは江戸時代中期、江戸幕府による封建社会の矛盾などが目立ち始め、人々は幕府へ不満を募らせていました。そんな中、中国から渡来した「煎茶道」。道教由来の”自然体に生きる事”をモットーとするスタイルは、人々の心を捉えてたちまちブームになりました。竹製品としては、煎茶道の道具の一つ「唐物籠(からものかご)」と呼ばれる花入れがあり、非常に珍重され、それを真似て製作する職人も現れ、その後幕末・明治初期にかけて日本独自に技術が洗練されていきました。
唐物籠に惹かれて
「唐物(からもの)」とは中国製品で特に中世・近世時代の美術品を指し、煎茶道ブーム以降、日本の文人や芸術家達に大きな影響を与えました。
竹芸家、初代田邊竹雲斎(たなべちくうんさい)もその一人でした。
きっかけは明治末期、文人画家の”柳里恭(りゅうりきょう)”の絵画に描かれた唐物の花籠図を見た事でした。作中に描かれた唐物籠の自在さ、そして生けられた花との優雅な佇まい。その美しさに感銘を受けた竹雲斎は、その後「柳里恭式」と呼ばれる独創的な花籠を作り出し、さらには煎茶道や華道にも精通し、国内外で数々の受賞する等、幅広く活動され人気を博しました。
世代ごとの特色
竹雲斎は、初代、二代、三代と、代々竹工芸家として活躍し、作風も伝承と同時に各世代ともに革新的で、特色も皆さまざまです。
花籠で見ると、世代ごとに特徴的な素材や加工方法があります。
唐物に影響を受けた初代は、竹根で編む事を得意とし、また古矢竹と呼ばれる”矢”として使用された竹を使うという斬新な素材使用、二代は初代の伝承に加え、独自の技法で繊細な美しさが軽妙洒脱な透かし編みや、すす竹をざっくりと使用した荒編み、さらに三代は矢竹に惹かれ、矢竹を直線的に使用したモダンなデザイン、というように時代と共に様々な持ち味で活躍されています。
また今日では海外からは”バンブーアート”として台頭している状況から、現在確かな価値として認められ注目されている傾向にあります。