【横浜店:絵画買取】浜口陽三 メゾチント・後編
ドライポイント/メゾチントとは
ドライポイントとメゾチントについてごく簡単にご説明いたします。
まずはドライポイント。
こちらは金属板にニードルなどで線を刻み、腐食液を用いずにそのまま印刷に用いる技法です。線刻のまくれ部分がインクを含み、柔らかな独特の線描となるのが特徴です。
続いてメゾチントは、銅版の広範囲にインクを入れるための細かい傷をつけ「目立て」をし、そこから絵柄に合わせて目立てを削ることによりインクの付かない箇所、もしくは薄く付く箇所を作っていく技法です。
メゾチントの最大の特徴は、黒の明暗、色の濃淡などの表現をつけやすいこと、ぼかしなどの柔らかい表現も可能であることでした。
メゾチントもドライポイント同様に銅版画の技法のひとつなのですが、当時は写真の発展により誰も使わなくなっていた技法でした。
ですが、この技法に目を付けた浜口は試行錯誤の末、ついに技法を復活させることに成功します。
浜口陽三の功績
当時は戦後で物資のない時代にメゾチントを始めたため、専用の器具などは持ち合わせてはおらず、定規などを用いてドライポイントの技法でメゾチントを行っていました。
器具を手に入れた後も、浜口の作品には全面に定規で引いたような網目が広がっています。
柔らかな網目のフラクタルな繰り返しが、単調になりがちな色面に心地よい変化をもたらしているのです。
また浜口陽三の創るメゾチント作品は、従来のそれとは大きく異なるものでした。
近世ヨーロッパのメゾチントは、写実的な表現を得意とし、複雑なグラデーションが用いられましたが、それに対し浜口は、写実に走らず、幾何学的な形状を意識し、時には平面的とさえ感じるシンプルな表現を好みました。この造形感覚はやはり日本美術に由来するものでしょう。
同様にメゾチントの復興者として名前の挙がる、横浜生まれの長谷川潔がいますが、長谷川のメゾチント作品は黒と白を使った表現をメインとしています。
一方で浜口は、黒だけでなく、より多くの色彩を使ったメゾチントを試していきます。そして誰もやったことのなかったカラーメゾチントという技法を生み出します。
これにより、様々な色の諧調表現ができるようになり、他の版画家では制作できないような作品を世に発表していきます。
その作品はもちろん、技術の復興、発展に貢献したことで様々な証を受賞し、今なお高く評価され続けています。
さくらんぼや葡萄のどこか緊張感のある静かな構図、メゾチントの深い色合い、穏やかな質感、これらが作り出す浜口陽三の静謐な世界は他に類を見ません。これからも永く美術史にその名は残るでしょう。
さいごに
余談ですが、浜口陽三の奥様である富山出身の南桂子も版画家です。
彼女も同様に銅版画作品を多数発表し、日本を代表する銅版画家のひとりでもあります。
技法はエッチングをメインに制作をしていましたが、なんと銅版画作品の制作を始めたのは40歳を過ぎてからという方です。
夫婦で同じように芸術作品を発表し続ける、なんとも素敵なご夫婦だと思います。
南桂子についても是非ご紹介させていただきたいのですが、それはまたの機会にいたします…。
浜口陽三と同様、南桂子作品の査定依頼もお待ちしておりますので、お持ちの際は古美術八光堂をご検討ください。