interview:漆芸作家・工房ぬり松、さんvol.4
第3回目にご紹介する作家さんは、福岡市中央区六本松にて工房を構える漆芸作家・松生順さん、松生まさよさんにインタビューを行いました!
前回のインタビュー記事はこちらから
松生 順 Matsuoi Jun
1967年 北海道生まれ
1995年 東京藝術大学美術学部工芸家漆芸専攻卒業
2018年 第72回福岡県美術展「朝日新聞社賞」
九州産業大学芸術学部 非常勤講師、岩田屋コミュニティカレッジ講師
松生 まさよ Matsuoi Masayo
1969年 東京生まれ
1994年 東京藝術大学美術学部工芸家漆芸専攻卒業
1998年 第2回千總きものデザインコンペ優秀賞
岩田屋コミュニティカレッジ講師
Official HP:https://nurimatsu.jp/
――新しいことにチャレンジされることに畏れはありませんでしたか?
工房ぬり松、さん(以下敬称略):伝統は踏襲してはいないんですけど、技法とか素材に関してはとても保守的なんですよ。
テレピンていう石油系の溶剤を混ぜたりする方もいらっしゃるんですけど、私達は絶対にそういうものは混ぜないようにしています。
昔からある伝統的な素材だけで造っていますね。人工的なものは入れないようにしていますね。
自然素材心理教って呼ばれてますね(笑)
石油原料の素材を使えばコスト的には削減できるんですけど、大量生産を考えなければそんなに大きくは変わらないと思ってます。
――今後は作品をもっと普及させたいという想いはあるのですか?
工房ぬり松、:今後は器だけに拘らず、バッグとかアクセサリーとか身につけるものを中心に作っていこうかなって考えています。
石油より身体に優しいことが売りでもあるので、そういうものにチャレンジしていきたいですね。
世界の中で歴史上一番古い漆の出土品は実はシャーマンが着る衣装だったと云われているんです。
巫女さんの衣装のようなものに赤い漆が塗られたものが北海道の函館で出土したんです。
それが9千年前っていうから驚きですよね。同時代には中国の揚子江流域辺りで漆塗りの木のお椀なんかも出てきたらしくて。
古い時代では装身具が凄く多いんですよ。
あと今度フランスで会席料理を出す料理人さんから器の注文を受けたんですけど、向こうは乾燥が凄いですからね。
漆は乾燥に弱いので木にそのまま塗るとダメージを受けやすくて。
新しい試みとして羊毛フェルトを器にしてみました。
北海道から羊毛100%のフェルトを取り寄せて漆で固めると器になるんですよ。
――作品を造るのにどれくらいの日数がかかりますか?
工房ぬり松、:2ヶ月以上はかかりますね。工程を省いて急いで造ると漆が剥がれたりとか直ぐにダメになっちゃうんですよね。
なので時間をかけるほど丈夫な物が造れますね。漆を塗って手で触っても付かないくらい表面が乾くのは6時間くらいなんですよ。
それから2ヶ月くらい時間をかけて初めて完全に固まるんですね。化学変化が止まるまでにはそれくらいの時間がかかるんですよ。
最低でも一週間は間を空けて次の作業に進めないと、生渇きの状態に蓋をしてしまうと化学変化が出来ず弱いままになってしまうので剥がれやすくなってしまうんですね。
――漆芸を普及させることをどのように考えられていますか?
工房ぬり松、:大事なことだと思いますね。見る目がある方を育てると本当に良い物の良さが分かるようになると思います。
以前に福岡の高校でアルバイトしてたんですが、音楽の先生にお話を聞いたんですよ。
そこの高校はヴァイオリンを生徒一人ひとりに与えて授業で教えてるんですね。
凄く贅沢だなって思ったんですが、その音楽の先生が「彼らはヴァイオリニストになるわけじゃないけど、ここを卒業したあとにクラシック音楽をきちんと聴ける人になるから、それは意味のある投資なのよ」って言われて。
私達の教室の生徒さん達はツルツルのいわゆる日常的によく目にする漆器を造りたいって言って入って来る方が多いんですけど、それ以外の新しい表現にチャレンジしていただくととても喜んでくれるんですね。
物造りの大変さと楽しさを学んでくれてますね。
――生徒の皆さんに伝えていきたいことは何ですか?
工房ぬり松、:それは「漆の一滴は血の一滴」と教えています。大切に使いましょうと伝えています。
今は大量消費が当たり前すぎて “右から左に” が横行してますよね。
だから勿体無いというよりかは、大切な物なんだってことを実感して自分の血と一緒なんだって考える。
そうすると表現も丁寧になってくるので良い物が出来るんですよ。
――今後の展望もしくは野望はありますか?
工房ぬり松、:今はこつこつ福岡の人に少しでも漆のことを知っていただけるように講演会をやったりしているんですけど、これからはワークショップのような形で気軽に参加できる講習をやりたいと考えています。
漆芸のほうは装身具の造ったりなど幅を広げていきたいですね。そうすると色々な制約が無くなるんですよね。今までは水洗いすることも考えて強く造らないといけないとか、重ねやすくないといけないとか。
せの制約が無くなるともっと自由に造れるようになるので、今までとはまた違った方達と出会えるのかなって思いますね。
ネット通販も2019年中には必ず始めようと思います!
――ありがとうございました!
さいごに
福岡では珍しい漆芸作家さんの大変貴重なお話をお聞かせいただきました。
私達が日常的に使っているものにも、裏では造り手さんの様々なアイデアや技術が詰まっていると改めて感じることができました!
お二人とお話させていただいていると「今後の漆芸はどうなってくるんだろう!?」と非常に興味深いジャンルであり、また期待に胸膨らみました。
今後のご活躍も期待しています!!
ご協力いただき、ありがとうございました!