カメオ・グラスの花器やランプ作品が有名なミューラー。アール・デコ期のアンティークガラス作家
ミューラーはフランスの有名なガラス工芸ブランドのひとつです。10人の兄弟で工房を運営し、カメオグラスの花器やランプなど多くの作品を制作しました。中でも1910〜1940年頃にヨーロッパやアメリカで流行した芸術様式「アール・デコ」の作品が有名です。
ミューラー作品の多くは、被せガラスの技法を用いた美しい色合いのガラスが特徴で、草花からインスピレーションを受けた風景文や幾何学模様のデザインは現在でも古臭さを感じさせず、多くの人々に永く愛されています。
この記事ではミューラーの創業の歴史や特徴・評価についてご紹介します。
フランスのガラス工房・ミューラー。10人の兄弟で工房を営む
▲ミューラー兄弟が育ったモーゼル地方
ミューラー兄弟の生い立ち。普仏戦争でフランスへ移り住む
ミューラーは、1895〜1936年頃に活躍したガラス工芸作家です。9人の息子と1人の娘の10人で工房を運営し作品を制作しました。兄弟はエミール、アンリ、ニコラ、ジャン、オーギュスト、ピエール、デジレ、ヴィクトール、カトリーヌ、ウージェーヌの10人になります。兄弟はフランスのモーゼル地方にあるカルハウゼンという町で生まれ育ちました。
1870年、普仏戦争が勃発しカルハウゼンはドイツ領になります。そのためドイツの徴兵制から逃れるために一家はフランスのナンシーに疎開することに。ナンシーはガラス工芸で有名な土地で、1885年には兄弟のうち5人がエミール・ガレ(※)のガラス工房で働くことになります。そこで兄弟はガラス工芸についての知識や、ガレの技法と様式を学びました。
アール・ヌーヴォーを代表するフランスのガラス工芸家。数々のガラス工芸品を遺し、日本でも高い人気を誇る。
▶エミール・ガレについて詳しく知りたい方はコチラもチェックしてください。
ガレの工房より独立。作品は数々の賞を受賞
1895年、三男のアンリがガレの工房より独立し、新たにフランスのナンシー地方の南東にあるリュネヴィルへ工房を建設しました。すると他の兄弟もリュネヴィルに集まり、ミューラーブランドの経営の礎が築かれました。
その後は順調に1898年にフランスのディジョンで開催された展覧会で金賞を受賞、1900年開催のパリ万国博覧会で多数の賞を得るなど、名だたる賞を獲得していきます。それらに続き、フランス国内のみならず、他のヨーロッパ各国でも同様に評価されることとなりました。
1906年には、デジレとアンリがベルギー最大のガラス工場ヴァン・サン・ランベールに招致され、デザインを担当します。ミューラーのガラスに彫刻を施す「グラヴュール技法」は、ヴァル・サン・ランベールでも大きな話題となり、なんと411種類ものデザインを残しました。
工房はガレの工房で下積み時代を経たアンリ、デジレ、ウジェーヌの3人が中心となり、優美なガラスの芸術を実現させていきます。
アール・デコ期の代表作家として1936年まで制作を続ける
1914年、第一次世界大戦が勃発し、フランス国内の多くの工場は戦争のために軍事工場へ転用されるか閉鎖を余儀なくされてしまいます。ミューラーの工房も例外ではありませんでした。工房の中心となっていたウジェーヌも戦禍に巻き込まれ死亡、ミューラー兄弟にとっては悲しみの空白期となります。
終戦後の1919年、リュネヴィルへ帰郷したアンリとデジレは、ガラス制作の製作再開を決心し、フランス北東部にあるクロワマールの工場を買収しました。そこでは主にアンリは経営を、デジレはデザインを担当しました。デジレが自由な発想でデザインしたものを採算がとれるようにアンリが製造手段を模索する分業制で、1936年の工房閉鎖まで制作を続けました。
ミューラーの作品の特長。花器やランプが人気
▲アール・デコ様式のインテリア。現代のインテリアデザインにも取り入れられる
植物や昆虫などをモチーフとしながら、アール・デコの美を体現したデザイン
ミューラーは「ナンシー派」の代表的な工房の一つとされています。ナンシー派とは、1901年にアール・ヌーヴォー(※)を代表するガラス工芸作家エミール・ガレがナンシー地方の美術家たちを集めて結成した連盟です。
ガレの工房で働いていたミューラーも、ガレの作品から多大な影響を受けています。また、ナンシー派特有の「自然への眼差し」をインスピレーションの源としており、植物や昆虫などをモチーフとしてあしらった作品を多く発表しています。
ミューラーの作品は、アール・ヌーヴォーと同様に有機物をモチーフとしながらも、どちらかというと控えめな装飾で、アール・デコ期(※)の特長である「機能性の美」を体現しています。
第一次世界大戦を経て芸術の大衆化が進み、機能的で合理的なものが求められた時代に歓迎されたデザインといえるでしょう。
19世紀末~20世紀初頭にかけて、ヨーロッパを中心にはじまった美術運動。花や植物といったモチーフ・自由曲線の組み合わせによる装飾性・鉄やガラスなどの新素材の利用など、従来の様式に囚われない芸術作品が生まれた。(※)アール・デコ
アール・ヌーヴォーに続き、1910年代半ば~1930年代にヨーロッパ・アメリカを中心に流行した装飾の様式。幾何学図形をモチーフにした記号的表現の他、原色による対比表現といった特徴がある。装飾の種類や方法が多様なことで知られる。
ミューラーの被せガラスの豊かな色調の変化と高い技術を要するガラス彫刻
ミューラーの作品の多くは、ガラスに別の色のガラスを被せた「被せガラス」の技法でレリーフ状の様々な文様を刻み出すカメオグラスです。
ガラスの粉末を型の中で熔融して成型する技法「パート・ド・ヴェール」や「グラヴュール技法」を用いて繊細なガラス彫刻作品が生み出されました。グラヴュール技法とは、表面に回転している丸い銅板をあてて彫刻を施すもので、彫刻された部分は摺りガラス状の美しい模様となりますが、大変高度な技を必要とされる技法でもあります。
ミューラーは兄弟それぞれがガラス工芸職人であったため、作品のサインは多数存在します。
基本的には「Muller」が多く、工場地名を入れた「Muller Freres Luneville」や「Luneville」、ナンシー派を主張する「Muller Croismare Nancy」「Croismare」「Croismare Nancy」などがあります。
ミューラーの作品・代表作の評価とは?
ミューラーの制作したアンティークガラス作品は、古臭さを感じず、現在にも通用するデザインとして今でも多くの人々に愛されています。
アンティークガラスの分野では、19世紀後半から20世紀前半のアール・ヌーヴォー期やアール・デコ期の作品が人気です。ミューラーの作品はアール・デコ期にあたり、さらに花器やランプといったような人気のアイテムが多いことから高値で取引されています。
ガレの影響が見て取れるような植物や昆虫をモチーフとしたもの、色味の多いもの、技法が多く使われているものなどは、より高く評価される傾向にあります。
美術品高額買取
ミューラーの作品・代表作の紹介
ミューラーの中でも、照明器具・花瓶は特に人気があります。アール・デコの特長である幾何学模様を繊細に施す高い技術力、そしてランプやシャンデリアなどの照明器具では光の表現へのこだわりなどから、他の工房の作品とは容易に見分けることができます。
ミューラー 花瓶
ミューラーの多くの作品で見られる技法で、「異色溶かし込み」という技法で作られています。「異色溶かし込み」とは、素地のガラス面に色の異なるガラスを流し込み、マーブルの模様やまだら模様などグラデーションで表現する技法になります。
ミューラー カメレオン文花瓶
ガレのもとで学んだミューラーは技法だけでなく、植物や昆虫など自然のなかにあるものをモチーフにランプや花瓶を作り上げました。こちらは中でも珍しいカメレオン柄の花瓶となります。「酸化腐食彫り」というフッ化水素と硫酸の混合液を部分的に使い分け、酸で腐食させて文様を表現する技法で生き生きとしたカメレオンが模られています。
ミューラー 五灯式天吊ランプ
テーブルランプと同等に天吊りのランプシェードは高い人気を誇ります。アール・ヌーヴォ―期を象徴とするようなレリーフの曲線美。また橙色から藍色へと異色のガラスを溶かし込んだランプシェードは点灯時もさることながら、点灯していない時でもミューラー独自の美しさが楽しめます。
「ランプ」「花瓶」「シャンデリア」など人気作品・代表作が多数
アール・デコ期を代表するガラス工芸作家・ミューラー。色彩豊かな被せガラスと、繊細なガラス彫刻で表現された植物や昆虫で彩られた作品群は、上品な雰囲気をたたえていて、使う人の心を穏やかにしてくれる魅力にあふれています。今回ご紹介した作品の他、「ランプ」「花瓶」「シャンデリア」などの作品が多数残しています。今なお多くの人々に愛され続けているブランドです。
そんなミューラーの作品は買取市場でも人気が高く、作品によっては高額で取引されています。キズや汚れがあっても、査定額が高くなる作品も数多くあります。ミューラーの作品の買取を検討されている方は、ぜひ一度ご相談ください。
古美術 八光堂